サガフロンティア2に登場する武具(杖)、「リムストックス」と「ブリムスラーヴス」について長年調べてきましたが、これではないか、と思うところがあったので書き留めておきます。
ただし、結論から言うと一致する部分はあるものの一方で不整合もあるため、あくまで「これではないか」という一つの考察に留まると思います。
前提
まず「リムストックス」と「ブリムスラーヴス」について軽く説明を。
この2つはいずれもスクウェア(現:スクウェア・エニックス)から1999/4/1に発売されたRPG『サガフロンティア2』に登場する武具(杖)のアイテムで、前者は水のアニマを有するツール、後者は未解明(星)のアニマを有するクヴェルとして登場します。
性能的に最も強いのは石のツールであるハードロック(武器性能49)にその座を譲っていますが、ハードロックに次ぐポテンシャルを持っています(リムストックスは40、ブリムスラーヴスは30)。
特に後者は虫のメガリスで入手できることや最終パーティのジニー・ナイツに杖の素質があること、シナリオの流れ等から愛用した方も少なからずいらっしゃると思います(と言いつつ自分は剣を使っていましたが)。
ヒント
この2つの杖の語源についてずっと考えていました (散発的ではありますが)。
一連のツイートの中でも触れていますが、サガフロンティア2の発売10周年を記念して実施された開発者インタビューがサガフロンティア2のコミュニティサイトで公開されています。
このインタビューの中にヒントがあります (というよりこれ以外にほぼ情報はない)。
リムストックスとブリムスラーヴスは、言語が違うだけで「時が刻まれた棒」というような意味だったと思います。 フィクションではなくて、普通に実在するものですよ。
なお、補足としてサガフロンティア2の北米版ではリムストックスは “Limstokes” 、ブリムスラーヴスは “Eternity Staff” となっています。リムストックスは原形を残していますが、ブリムスラーヴスは面影すらありません。
これらの情報を一度整理すると、以下のようになります。
- リムストックスとブリムスラーヴスは同じ意味
- 両者は言語違い
- 意味は「時が刻まれた棒」のようなニュアンス
- フィクションではなく、実在するもの
- リムストックスの綴りは “Limstokes”
調査
色々な言語で「棒」や「時」の綴りを調べたり、インタビューの直前に指輪物語への言及があること等から(実在するものというヒントから可能性は低いと考えていましたが)シンダール語やクウェンヤまで範囲を広げてみたりしましたが空振り。
アガサ・クリスティーの『動く指』でリムストックという村が舞台になると知って同作を読んでみたり (綴りは “Lymstock” の模様)、イギリスに Plymstock という村が存在することを調べたり。
そんな中、とあるツイートが目に留まりました。
リムストックスの綴りこそ異なる (Rimstocks) ものの、この線を探ってみました。
まずヒットしたのがこのページ。 David Diringer というイギリスの言語学者・古文書学者・作家の方が著した『Alphabet Key To History Of Mankind』(1953)という書籍のページのようです。
これらは先の方のツイートの通り、木製のカレンダーに刻まれていた文字について論じています。その中で該当リンクはその509ページの文章と図を引いています。前ページ(508)から文章がまたがっているので、該当部分を引用します。
The runie calendars are another interesting class: those from Norway are known as Primstaver, prim being the equivalent of “Golden Number(※ページ下部のテキストでは golden Dumber と誤字しています)”; those from Denmark are called Rimstocks, from rim, “calendar,” and stock, “stick.
曰く、「ノルウェーのもの(木製のカレンダー)は “Primstaver” と呼ばれ、 Prim は “黄金数” を意味する」とのこと。また、「デンマークのものは “Rimstocks” と呼ばれ、 rim はカレンダー、 stock は棒に由来する」。
後者の説明が先のツイートそのものですね。綴りがサガフロンティア2北米版の Limstokes とは異なりますが、 Rimstocks であればカタカナで「リムストックス」で一致します。
また、その名前が「カレンダー(暦)」と「棒」に由来し、暦を示す文字が刻まれていたのであれば「時が刻まれた棒」というような意味、という冒頭のヒントとも一致します。
一方、ノルウェーの “Primstaver” ですが、これについては元画像が粗いため判別が難しいですが、ページのキャプチャ画像をよく見るともしかしたら “r” ではなく “s” の可能性があります。実際、例えば次の書籍では “Primstaves” と記されています。
- The Natural History of Stafford-shire – Robert Plot – Google ブックス
- New Curiosities of Literature: And Book of the Months – George Soane – Google ブックス
先の “Primstaver” であればカタカナで「プリムスターヴァー」くらいになるかと思いますが、 “Primstaves” の綴りであれば「プリムスターヴス」または「プリムステーヴス」と表記できなくはないかと考えられます (実際の発音はひとまず置いておきます)。
この他の書籍では
- A THEATRE FOR THE SOUL ST. GEORGE‟S CHURCH, JESMOND: THE BUILDING AND CULTURAL RECEPTION OF A LATE-VICTORIAN CHURCH (※PDF)
- WYBRANE ZAGADNIENIA WYBRANE ZAGADNIENIA Z HISTORII ZNAKÓW Z HISTORII ZNAKÓW RUNICZNYCH (※PDF、ポーランド語)
等がヒットしました。
Drugą interesującą grupę stanowią kalendarze runiczne. Kalendarze z Norwegii znane są jako Primstaves; prim jest odpowiednikiem “złotej liczby”. Duńskie zwą się Rimstocks, od rim, “kalendarz”, i stock, “kij”. Były one czymś w rodzaju wiecznego kalendarza i w niektórych okolicach Skandynawii uŜywano ich jeszczena początku ubiegłego stulecia.
WYBRANE ZAGADNIENIA WYBRANE ZAGADNIENIA Z HISTORII ZNAKÓW Z HISTORII ZNAKÓW RUNICZNYCH
後者のPDFから該当部分を引用すると、 Prim は「黄金数」を意味するとのことで先程の『Alphabet Key To History Of Mankind』の説明とも合致します。
問題はサガフロンティア2のアイテムの名前は「ブリムスラーヴス」であり、「ブ」と「プ」(あるいは “B” と “P”?)、「ラ」と「タ」または「テ」(あるいは “l” と “t”)の音が不一致となっています。
これらについては説明が付きませんが、
- 物品の名前を直接使用することを避けるために意図的に音をずらした
- 手書きのノートの読み間違いや記憶違い
等の理由が考えられます。
こうした音の変化は他のアイテムの例として「バブラシュカ」(北米版の綴りは “Babrashka”)が挙げられます。
こちらは槍で木のアニマを有するツールですが、由来はおそらくビリヤード棒の「バラブシュカ (“Balabushka”) 」ではないかと思われます。
仮にこの由来だとすれば、オリジナルから何らかの理由で音が変化した例だ、という可能性が考えられます。
あくまで推測ですが、この可能性を信じるのであれば、同様にブリムスラーヴスも元の単語から何らかの理由で音が変化したものであり、その語源は “Primstaves” ではないか、と考えることはできます。
なお、これらの “Rimstocks” や “Primstaves” はいずれも Clog Almanack (クロッグ・アルマナック) と呼ばれるもので、文字を読み書きできない人のためのカレンダーで、木の塊に平日・日曜日・聖人の日を曲線の刻み目と聖人にちなむ記号で表したもの、だそうです。
Clog Almanack については次のページも参照のこと。
こちらの写真を見ると、外見は木の棒であることが分かりやすいかと思います。
以上の調査から、冒頭のインタビューのヒントとの共通項を挙げていきます。
- リムストックスとブリムスラーヴスは同じ意味
- Clog Almanack に類する同類の物品
- 両者は言語違い
- “Rimstocks” と “Primstaves”
- リムストックスはデンマーク語、ブリムスラーヴスはノルウェー語 (ただし文字・発音は完全には一致しない)
- 意味は「時が刻まれた棒」のようなニュアンス
- 両者ともに暦が刻まれた細長い木製の塊と思われるので、「時が刻まれた棒」のニュアンスと一致する
- フィクションではなく、実在するもの
- 実在する
一方、不整合の点としては
- リムストックスの綴りは “Limstokes” (北米版より)
- リムストックスは Rimstocks
- ブリムスラーヴスは文字・音が一致しない
- Primstaves で「ブ」と「プ」(あるいは “B” と “P”?)、「ラ」と「タ」または「テ」(あるいは “l” と “t”)の音が不一致
上述の共通項の方が一定の類似性を有することから、一つの説として「リムストックスとブリムスラーヴスの語源は、細長い木の塊に暦を刻んだ Clog Almanack のデンマーク語 Rimstocks とノルウェー語の Primstaves ではないか」と記しておきます。
謝辞
今回引用させていただきました @Aono_Y 氏のツイートがなければ、今回の調査は進まなかったと思います。勝手ながら、この場を借りて感謝を申し上げさせていただきます。
参考
Clog Almanack 関連
- Aono.Y \/ Y.AokiさんはTwitterを使っています: 「某所にあったサガフロ2の10周年記念インタビュー記事の「時が刻まれた棒」というような意味でリムストックスと言語違い、を手がかりに探してみましたがRimstocksは昔の北欧の産物でデーン人の文化(?)、木でできたカレンダーのようなものということしか分かりませんでした(白目」 \/ Twitter
- Alphabet Key To History Of Mankind – Jain Quantum
- Alphabet Key To History Of Mankind – Jain Quantum
- The Natural History of Stafford-shire – Robert Plot – Google ブックス
- New Curiosities of Literature: And Book of the Months – George Soane – Google ブックス
- A THEATRE FOR THE SOUL ST. GEORGE‟S CHURCH, JESMOND: THE BUILDING AND CULTURAL RECEPTION OF A LATE-VICTORIAN CHURCH (※PDF)
- WYBRANE ZAGADNIENIA WYBRANE ZAGADNIENIA Z HISTORII ZNAKÓW Z HISTORII ZNAKÓW RUNICZNYCH (※PDF、ポーランド語)
- Primstav Resources — Norse in Tucson
- Runic calendar – Wikipedia
- Primstav – Wikipedia
- Clog Almanack | Chetham’s Library
バブラシュカ・バラブシュカ
動く指関連
2022/7/24追記
恐れ多くも尋ねてみました……ご丁寧に返答をいただけました。結果はリンク先のツリー参照で。