蓮台野について

上海アリス幻樂団の音楽CD、『蓮台野夜行 ~ Ghostly Field Club』にてメリーと蓮子の二人が訪れた蓮台野(れんだいの)。

同CDジャケット裏の物語では、蓮台野に冥界に通ずる”入り口”が存在した。そして二人はこの”入り口”を探す為に蓮台野を訪れたことは周知の通りと思われる。では何故、物語中の蓮台野には冥界に通ずる”入り口”があったのであろうか。

今回は、この点を中心として関連のありそうな事項と照らし合わせて筆者個人の私見を述べたいと思う。


そこでまずは蓮台野という単語に注目したい。この蓮台野は墓地や葬場を意味する単語であり、蓮台は仏や菩薩が座っている蓮の形の台座のことを指す。加えて、蓮台は極楽往生した人が座るという蓮の花の座のことも意味する。

これらのことからわかる通り、蓮台野、あるいは蓮台の語は人の死と関連の深いものである。蓮台野が墓地ということは、CDでも「魔法少女十字軍」の項にて「蓮台野って墓地だったわね」といっていることと一致する。

ところで、蓮台野の語は地名となっている場合が多く、全国的に分布しているという。その中でも著名なものとして、京都市北区の蓮台野がある。同地は船岡山の西から紙屋川にかけての辺りの一帯で、京七野の一つとされる。その一方で、同地は平安期には東山の鳥辺野、西の化野(あだしの)と並ぶ葬送の地とされていた。この地名の由来については『野守鏡』に定覚上人が恵心(源信)僧都の始めた二十五三昧会を

うらやみて又おこなひ侍りけるに蓮華化生したりければ

法界してこの所にて墓をしめん人をは必引接せん発願したりけるより

蓮台野と名付て一切の人の墓所となれり

と記している。

また、『扶桑京華志』に

寺有リ号九品蓮台寺ト曰フ、因テ名ク

とあり、その地名が蓮台寺の寺号に因むと考えられていたことが窺える。この蓮台寺は、北区紫野十二坊町にある上品蓮台寺のことで、真言宗智山派、蓮華宝山九品三昧院と号すという。

ここで、前述の蓮台寺の住所に着目したい。蓮台野の辺りは紫野(むらさきの)の一部であった為、蓮台野のことを”紫野”として詠んだ歌があるという。また、『後拾遺集』には

円融院の法皇うせたまひて紫野に御葬送侍りけるに、…(後略)

とある。この文もまた、蓮台野を紫野として記している一例と考えられる。これらのことから窺えるように、蓮台寺、また蓮台野に関連深い地名として紫野があり、そこには”紫”の文字が含まれている。

紫、といえば幻想郷においてはあらゆる境界を操る程度の能力を有する大妖怪の名であり、そのテーマ曲にはネクロファンタジア(Necro-fantasia, Necrophantsaia…直訳すれば死の幻想曲、死の幻想)がある。

これらのことから、紫の文字から八雲 紫を通じて、境界や死の両方に関連を見出すことができると思われる。

なお、蛇足ではあるが『蓮台野夜行 ~ Ghostly Field Club』の発売は『東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.』より後である。

さて、幻想郷の人物が出たところでもう一人、蓮台野と関わりのある人物を見てみたい。

その人物とは、西行寺 幽々子である。幽々子は、その姓や『妖々夢』の劇中に出現する「願わくは…」「ほとけには…」などの歌からわかる通り、平安時代の僧・西行法師をモチーフにしていると考えられる。

その西行法師は、蓮台野に関して

露と消えば蓮台野にを送り置け願ふ心を名に現さん

意訳: 露が消えるように儚く死んだならば、蓮台野に葬送して欲しい、
極楽浄土の蓮の台の上に生まれ変わろうという願いが実現するであろう

といった歌を詠んでいる。この歌そのものも、極楽浄土への生まれ変わりや蓮台野への葬送など、死のイメージを内包している。

しかしながら、西行法師をモチーフにしていると考えられる西行寺 幽々子は冥界にある白玉楼に住まう亡霊であり、こちらも強く死と結び付いている。つまり、西行法師の歌から、二重に死との関連を見出すことができる。

このように蓮台野の語のみならず、幻想郷と絡めることでより蓮台野と境界、死とを強く結び付けて考えることができると思われる。


さて、蓮台野と境界、死、あるいは冥界といったものを結ぶ事項として
挙がったものとして、蓮台野が墓地や葬場を意味する語であること、また蓮台が仏や菩薩の座る蓮の台座、極楽往生した人の座る蓮の花の座を意味すること。

さらに幻想郷の人物との関連でいえば、京都の蓮台野の住所に紫の文字が含まれることや、同所が西行法師によって歌に詠まれていることが挙げられる。

では、最後にまた違った角度から蓮台野と境界、死との関連について考えたい。そこで取り上げるのは”デンデラ野”の語である。この語は、CD中では一曲目のタイトル「夜のデンデラ野を逝く」に現れている。

さて、このデンデラ野は蓮台野の転訛した語といわれ(ただし違うとする説も存在する)、類似した語は長野県東筑摩郡の墓の引導場として蓮台場デンデバや愛知県碧海郡の火葬場としてデンデの名があることなどが見受けられる。

一方、デンデラ野そのものの語はというと、柳田国男氏が著した『遠野物語拾遺』二六六、二六八に見ることができる。同書は、岩手県遠野地方に伝わる民話を編纂したものである『遠野物語』に続いて発表された書である。この『遠野物語』といえば、『妖々夢』のステージ2道中曲の名に「遠野幻想物語」があり、その舞台のマヨヒガも同書の中の説話に見えるように、関連が深いと思われる。

デンデラ野に話を戻そう。先述の通りデンデラ野は蓮台野の転訛と考えられ、『遠野物語』一一一、一一二、一一四には蓮台野の名とそれに纏わる説話が記されている。そこで、これらの蓮台野やデンデラ野の説話を順に見てみたい。

まず、『遠野物語』一一一には、山口、飯豊いいで、附馬の字あざ荒川、
東禅寺及火渡、青笹の宇中沢、土淵村の字土淵には共にダンノハナという地があり、その近くに対となって必ず蓮台野の地があるという(ただし、山口のもの以外は忘却されつつあるとのこと)。昔は六十を越えた老人をこの蓮台野に棄てたといい、いわゆる姥棄山の譚に類似した説話が語られている。

しかし、一般的な姥棄山の説話とは異なり、老人が棄てられるのは深い山奥ではなく、集落からさほど離れていない畑地、草地であったといい、日中は里に下りてきて田仕事を手伝うこともあったという。加えて、一つの地域に遺棄の場が複数あることも他に例がなく、特筆すべきこととされている。

この説話は『遠野物語拾遺』二六八にも、青笹村のデンデラ野に老人が遺棄された説話が記されている。

次に『遠野物語』一一二では、ダンノハナは昔、館のあった時代に囚人を斬った場所であろうということや、蓮台野の地理についての説明などが記されている。さらに同書一一四では、山口のダンノハナについてそこが共同墓地となっていることなどが記されている。

なお、ダンノハナについては同書一一一の補注で、

ダンノハナは壇の塙なるべし即ち丘の上にて塚を築きたる場所ならん

境の神を祭る為の塚なりて信ず蓮台野も此類なるべきこと

石神問答の九八頁に言へり

とあり、境の神を祀る為の場所として捉えられていたことが窺える。また、『遠野物語拾遺』二六六では、青笹村の字糠前ぬかまえと字善応寺ぜんのうじの境のデンデラ野について述べており、村中に死ぬ人がある時はシルマシ(予兆)があったという。

それは、デンデラ野を夜中に馬を引いて山歌を歌ったり、馬の鳴輪の音をさせて通る者があるというもので、この時は村中の男性が死ぬとされていた。女性の場合は、平生歌っていた歌を小声で吟じたり、啜り泣きをしたり、高声に話をしたりして通り過ぎる者があるという。

このように、遠野の蓮台野(デンデラ野)について見てみると境の神を祀るダンノハナとの関連から境界が、村中に死ぬ人があると予兆があったという説話から死という、いずれも『蓮台野夜行』の物語に繋がる言葉が見出せる。

特に後者については、CDの一曲目のタイトルが「夜のデンデラ野を逝く」という名であることも併せて考えると興味深い。

ここでの”逝く”は、メリーと蓮子が蓮台野に向かおうとしている点から目的地に進む意味の”行く”と、人が死ぬ意味の”逝く”とを掛けたものと思われる。しかし、メリーと蓮子が行く場所は蓮台野、時間は夜であり、まさに夜のデンデラ野ということができる。

その時間帯、地名は先述の通り『遠野物語拾遺』ではそこを通る者があると死人が出るという説話と重ねることもできる。つまり、そこには”逝く”という文字の表現だけではなく、そのバックグラウンド、下地にも死のイメージが含まれていると考えられる。

さらに、『遠野物語』や『遠野物語拾遺』に記されている蓮台野(デンデラ野)は老人を遺棄する場所であり、あるいはその対となる地のダンノハナでは境の神が祀られていたと考えると、集落に住む人にとってそこは日常とは一線を画する世界、一種の異界と捉えられていたのではないかと考えられる。

このようなバックグラウンドもまた、境界や死といった『蓮台野夜行』と関連の深い単語と結び付けられる。


以上見てきたように、蓮台野という語は幾つもの事物と絡み合って境界、あるいは人の死、冥界といった概念と結び付けて考えることができた。このように、複数の事項から境界、死といった概念と通じる名であったからこそ、物語中の蓮台野には冥界に通ずる”入り口”があったのではないだろうか。

― 出典 ―

  • 『蓮台野夜行 ~ Ghostly Field Club』 上海アリス幻樂団 2003(冬)
  • 『東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.』 上海アリス幻樂団 2003(夏)

― 参考文献 ―

  • 『遠野物語』 柳田 国男著 大和書房 1972
  • 『〔口語訳〕遠野物語』 綾藤 総一郎監修 佐藤 誠輔訳 株式会社河出書房 1993第4版
  • 『遠野物語小事典』 野村 純一/渋谷 勲/菊池 照雄/米屋 陽一編 株式会社ぎょうせい H.4
  • 『日本妖怪散歩』 村上 健司著 株式会社角川書店 H.20
  • 『岩手県の地名 日本歴史地名大系第三巻』 有限会社平凡社地方資料センター編纂 株式会社平凡社 1990
  • 『角川日本地名大辞典 26 京都府上』 「角川日本地名大辞典」編纂委員会・竹内 理三編者 株式会社 角川書店 S.57
  • 『京都・山城寺院神社大事典』 平凡社編 平凡社 1997
  • 『京都大事典』 佐和 隆研/奈良 本辰也/吉田 光邦ほか 株式会社淡交社 S.59
  • 『和歌文学大系21 山家集・聞書集・残集』 西澤 美仁/宇津木 言行/久保田 淳著 株式会社明治書院 H.15
  • 『山家集 金槐和歌集 日本文学大系29』 風巻 景次郎/小島 吉雄校註 株式会社岩波書店 1961
  • 『改訂綜合日本民俗語彙 第三巻』 財団法人民俗学研究所 株式会社平凡社編著 S.52第二版
  • 『改訂綜合日本民俗語彙 第四巻』 財団法人民俗学研究所 株式会社平凡社編著 S.52第二版
  • 『例文 仏教語大辞典』 石田 瑞磨著 小学館 1997
  • 『広辞苑 第五版』 新村 出著 岩波書店 1998
  • 『古語林』 林 巨樹/安藤 千鶴子編 株式会社大修館 1997

この記事を書いた人