三月精第3部第13話雑感

初版: ’11 4/16

雀は人里近くに住み着き、人目に付きやすいことから昔話の物語の登場人物として古来より用いられることが多かった。

さて、今回の話に登場する、雀に纏わる話は次の三つに分類できると思われる。

  • 雀孝行(昔話)
  • 雀酒屋(昔話)
  • 雀百まで踊り忘れず(諺)

以下にそれぞれについて見てゆきたい。

1. 雀孝行

あらすじは本編中で語られている通り。その昔、雀と啄木鳥(きつつき)は姉妹で、親が危篤となったとき雀はちょうどお歯黒を付けていたがすぐに駆け付け、親の死に目に逢えた。

一方、啄木鳥は化粧や身づくろいをしてから出かけたため、親の死に目に逢えなかった。このことから、雀は姿は美しくないものの人里近くに住んで穀物を食べることが許された。しかし、啄木鳥は姿は美しいものの木の皮をつついて餌を探さなければならなくなった、と語られる。

別のバージョンでは姉が啄木鳥ではなく燕やカワセミなどに置き換えられた話や、親の死に目ではなく、釈迦の入滅のときだとする型も存在する。

とはいえ、いずれも雀が孝行者であったために十分な食料を得ることができたという報恩を語る骨子は変わらない。

2. 雀酒屋

こちらもあらすじは本編中で魔理沙によって語られている通りである。この話にも幾つかバリエーションが存在するという。

例えばそのうちの一つとして長崎県福江市のものでは、雀が稲を啄ばんで谷沿いの水溜りに置いたものが酒になるのを人間が知って真似た。そのため、酒造家は雀を害することを忌む、として酒の由来と禁忌を語っているようだ。こうした「雀が酒を作る」話は他にも神奈川県や島根県にも見えるという(『日本昔話事典』より)。

特に島根県松江市の例では、雀が墓に供えてあった米を青竹の切株に溜まった水の中に入れてお酒になった。

その酒を雀が飲んで踊り、雀百まで踊りやまぬ(雀百まで踊り忘れずのことか?)の由来になった、とまで続く。

つまり、このバリエーションでは

  • 墓に供えてあった米
  • 青竹の切株に溜まった水に入れた
  • 酒を飲んだ雀が踊る

といったように、魔理沙が語った型と大方で一致する。

3. 雀百まで踊り忘れず

“雀は一生飛んだり跳ねたりすることを忘れないように、人間も子供のときの癖や習慣は年を取っても変わらない”ということを表す諺がこれ。

これは雀が小刻みに跳ねて移動する様子を踊りに見立てたものだとされる。

類語には「三つ子の魂百まで」などが挙げられる。

なお、雀の和名は『日本釈名』という書物では、雀の習性が「おどり、すすみ行く」ことからだ、と説明されることがあったようにその地上での動きは名前の由来として結び付けて考えられたことがあったほど印象的だったのかもしれない(上の説は、雀の和名の由来を説明しようとしたあくまで一説)。

以上の三つの話を取り入れ、組み合わせたのが今回の話の内容に用いられているのだろ考えられる。

ただし、島根県松江市の雀酒屋の例のように、2.と3.は元々結び付けて語られる場合があったようである。

その上で、雀が米を食べることが許されるようになった理由として1.を組み合わせたものとも考えられるかもしれない。

なお、今回の話には直接関係はしないものの、「雀の酒盛り」という言葉は騒々しい宴会を意味する言葉として存在する。

また、酒造用の桶やタンクの下部に設けられた流出口に差す木製の栓のことを雀ということがあるようだ。

― 出典 ―

  • 『東方三月精 ~ Oriental Sacred Place. (2)』(第13話 雀百まで) 比良坂 真琴/漫画 ZUN/原作 株式会社角川書店 2011

― 参考文献 ―

  • 『日本昔話事典』 稲田 浩二/大島 建彦/川端 豊彦/福田 晃/川原 幸行編 株式会社吉川弘文館 S.52
  • 『日本民俗大辞典 上』 福田 アジオら編集 吉川弘文館 1999
  • 『神話伝説辞典』 朝倉 治彦・井之口 章次ら編集 株式会社東京堂出版 S.47第12版
  • 『世界大博物鑑 第4巻 [鳥類]』 荒俣 宏著 株式会社平凡社 1987
  • 『故事ことわざ辞典』 野口 七之輔 日本書院編集部編著 日本書院 S.62
  • 『故事成語ことわざ事典』 石田 博編 雄山閣出版 S.52第4版第2刷
  • 『現代ことわざ辞典』 外山 滋比古編著 株式会社ライオン社 1995
  • 『日本の酒文化総合辞典』 荻生 待也編著 柏書房株式会社 2005

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