ここでは、『東方風神録 ~Mountain of Faith.』に登場する「秋 静葉」と「秋 穣子」の両者について考察を行う。
筆者は前回、稗田阿求について考察を行った。一応、阿求に関連しそうな事項は(筆者の多分な推測を交えて)拾ったつもりである。
今回も”考察”と銘打ち、最初に挙げた二者の元ネタ、或いはその裏に隠されていそうな事項を紐解きたいと思う。
なお、筆者が前回の文章を改めて読み直した所、(他にも足りないと感じる所はあったのだが)本文を考える事に手一杯で、その趣旨についての明文化を怠っていたと感じたので、ここに記述させてもらう。
これらの”考察”は、筆者が多少の資料を調査し、その資料や筆者自身の考えを併せて文章としたものである。無論、上の過程において筆者の独断や推測が多分に含まれる可能性がある。その点を予めご了承願いたい。
また、考察対象のキャラクター設定は、基本として上海アリス幻樂団が製作するもの(各作品のキャラ.txtやおまけ.txt、或いは書籍『東方文花帖』、『東方求聞史紀』等の所謂”公式”されるようなもの)に準ずる。
そういった設定の中で、筆者が調べられた範囲の内容をなるべく全て拾うように記述する為、考察対象キャラクターのネタバレとなる事を承知して頂きたい。
また、考察中に別キャラクター・事象と関連性が認められる場合はそちらのキャラクターや事象にも足を踏み入れる可能性がある。
その上で筆者の私見を述べるものである。また、これはあくまで”考察”であって、それ以上でもそれ以下でもない。
つまり、これは外部の人間が勝手に考えている事であって記述している内容は必ずしも真実であると言う保証はどこにも無い。更に、筆者が「自分はこう考えてているんだ」という点については積極的に前に出す事もある。
全く論拠が無いという事は無いように心がけるが、多少不確かであったとしても、記述した文章に準じて考えたものが面白いと思った内容については意図的に脱線した内容(具体的には、”そう考えると同じ作品内の別のキャラクターと関連性を持ちうる”等といったところか。今回の考察においての秋姉妹と諏訪子のような。)を記述する事もあり得るのであしからず。
なお、一旦掲載したものに関しても、更に調査を進める事や誤り等で加筆・修正が行われる事もある。
とりあえず現在思いつく限り、注意事項等堅苦しい文章は以上のような感じである。
長くなってしまったが、本論に入りたいと思う。今回は、具体的キーワードを羅列するような記述ではなく、最初に以下のようなチャートを用意してみた。
- 第1章.秋 静葉
- 1節.その名前とスペルカード名
- 2節.容姿と背景
- 第2章.秋 穣子
- 1節.その名前とスペルカード名、曲名
- 2節.その原像
- 3節.余談
第1章.秋 静葉
1節.その名前とスペルカード名
秋 静葉。紅葉を司る神。
日本の国に八百万の数のようにたくさんいる神々のうち、秋の現象「紅葉」を司る。
その姓の”秋”一文字は単純明快にそれを表している。また、『風神録』1面のテロップ、”八百万の秋の神”という表現もしっくりとくるだろう。
さて、紅葉と言えば秋とされるが、具体的には(地方にも依るが)、大体11月前後の晩秋の現象であろう。晩秋という季節に、冬が間近に控えているという感を感ずるのは、おそらく筆者だけではあるまい。
冬には、動物達は冬眠して地上から姿を隠す。草花も枯れるものあり。そして、木々は葉を落とす。落葉とは、冬という静寂を、また、生命の溢れていた季節の終焉を、それに併せた寂しさというものを容易に想起させる。
「静葉」の名やその二つ名、「寂しさと終焉の象徴」とは、これらの自然現象や情緒を体現していると考えられる。劇中で静葉が出現する時、曲調が一転する事も趣深い。
では、静葉の用いる弾幕やスペルカードはどうであろう?
静葉の弾幕は赤と黄色に準ずる弾で占められる。これは弾が紅葉した葉を模していることは言うまでも無い。そして、難易度がノーマルやイージーの場合、2つ目の攻撃は静葉を中心として5方向に赤い弾が鏃の形の群れとして放たれるが、これは紅葉(もみじ)の葉の形を模していると考えられる。或いは、ストーリー的に梶(かじ)の葉かもしれないが。
次に、スペルカードを挙げてみたいと思う。
葉符「狂いの落葉」
紅葉の後、木々は葉を落とす。深紅と黄色に彩られた弾はまさに舞い落ちる葉のようである。難易度がハードやルナティックの時だけ使う為、その量はまさに”狂”ったかのように大量に降り注ぐ。
しかし、”狂”の文字にこめられているものはそれだけであろうか?そこで、樹木に関する事象で”狂い”と名を冠する現象がある事も述べておこう。
“狂い咲き”
これは、ある種の花が例年とは違う時期に咲く事を指す言葉である。
科学的見地からすれば、それは気候変動などによって植物の開花のステップが何処かでずれた結果であろうが、古の人々は、それを常ならぬ事の前兆であるとか、神の意思が表れたものであると解釈したという。
つまり、この”狂い咲き”の現象を「狂いの落葉」に当て嵌めて考えると、そこには”何かの前兆”・”神の出現”といった意味合いが込められていると考える事が出来るのである。
すると、静葉という神が出現したと言うことの徴を示すのか。それとも、神奈子が降臨する事を予見しているのであろうか。
或いは…もしかしたら、このスペルカード…秋姉妹が何かの伏線と言うことを暗喩しているのか?
2節.その容姿と背景
静葉の服装・髪や瞳の色は上述の弾幕と同じように、赤や黄色で統一されている。また、スカートの裾の形や髪飾りから、静葉というキャラクターが紅葉という現象によって統一されている事が窺える。
一方で、静葉がスペルカードを使用している時の背景はどうであろうか?
この背景は姉妹共通のものである事はお気づきであろう。
その中では、ススキやオジギソウらしき植物の影の中に、更に別の植物の葉らしき模様が下から上へと移動している。そして、そういった植物の上をトンボが飛んでいる、といった図である。
植物については完全に断定できないが、ススキらしきものがある所からすると秋の風景を表しているのではないかと推測できる(但し、時期的には晩秋より少し前になる)。
トンボの方は、トンボ自体が秋津(あきつ)とも呼ばれる他、神武天皇が山上から国見をした際に「蜻蛉のとなめするが如し」と言葉を発したという神話から日本を秋津島・蜻蛉洲(どちらも”あきつしま”と読む)と言うようになった、という話が伝えられている事からも判るように秋を体現する意匠であると見て間違い無さそうである。
両者を見て、秋姉妹の背景は”秋の日本の風景”を表したものと言うように考える事ができると思う。
このように、静葉は名前・スペルカード・背景といった各要素においてそれぞれ秋を表していると言うことができよう。それは、妹の穣子についても同様である。