目は知覚のシンボルである。第2節の冒頭でそう述べた。
さとりは自身の持つ第三の目で相手の心を知覚する。
第三の目がさとりと深い繋がりを持っていることは、テーマ曲「少女さとり ~ 3rd eye」の名に”3rd eye”と冠していることからも窺える。
ところで、その第三の目に再び着目すると、その位置が左胸にあり、赤い円の中にあるその目からは六方に管が伸びていることが判る。
左胸という位置、赤色、そしてそこから伸びる管。
これらの要素から、それが心臓をモチーフとしたものであると想像することは容易い。
心臓は概念上、人間の身体・霊の両面どちらから見ても中心的な存在であると位置付けられることが多い。
心臓の”心”はそれ単体で”こころ”と読み、知識や意思、感情の源とされるように、或いは英語においても、
Have a chenge of heart(気が変わる)
Grief makes te heart ache(悲しみで心が痛む)
ということなど、心臓は古今東西を問わず広く、感情の宿る場所であり、また魂そのものを表したり、(理性に対する)感情的知性を象徴したりした。
或いは、生命の本質を宿すということもあったという。
ところで、通常第三の目というと額にあるように描かれることが多いが、さとりにおいては、それが心臓の位置にあることは重要な意味を持つだろう。
そのことが、さとりの心を読む能力に結びつくからである。
Stage 4道中の曲名に「ハートフェルトファンシー」Heartfelt Fancy(心からの、嘘偽りない幻想)と、”ハート”の語を用いたのも、この点と関連付けたものだろうか。
なお、fancy には多くの意味があり、空想や幻想の他、ちょっとした思い付きや、嗜好、好みといった意味も有する。
その中のややマイナーなものに、審美眼や鑑識眼といった物事の善し悪しを見分ける力の意味が含まれていることは興味深い。
さとりの能力を暗に仄めかしているのかもしれない可能性が見えるからである。
さて、先はさとりの第三の目は人の心臓の位置にあるというところから、”心(臓)”に着目した。
そして、心を読むという能力から心(臓)の位置に第三の目を持つことと結び付けるに至った。
一方、”目”と”心臓”の両方が共通して象徴するものもある。
それは、太陽だ。
太陽は天高くに輝く一つの球体であり、それは天空神の目として表される。
その為、天空神は隻眼(一つ目)として描かれる例がある。また、月と対になって日月で両眼とすることもある。
この時、太陽は天高くから万物を見下ろす為に、前節で述べたように万物を見通す目であるといった観点にも繋がる。
その他、『古事記』では伊邪那岐命が黄泉国から戻り禊を行う場面で、左目を洗うと天照大御神(太陽神)が、右目を洗うと月読命(月神)が化生したというように、神の目から太陽神が生まれる、というタイプの神話も多く、目と太陽が密接に結び付けられていることが判る。
一方、天空で輝く太陽は天の中心的な存在とされ、太陽神は神話において主権を持つことも多い。
その中心的な性格や、太陽が光をもたらし、生命を育むという着想からは、生命の本質を宿し、人体の中心とされる心臓に結び付く。
このように、違った切り口ではあるが、”目”も”心臓”も共に太陽のシンボルとされることが判る。
今作において太陽は重要な位置付けにあることは、言うまでもないだろう。
Stage 6ボス、霊烏路 空が太陽の化身・八咫烏を飲み込んでいるからである。
さとりの左胸にある第三の目…”目”や”心臓”といったシンボルは、空の存在も予見していたのかもしれない。
地霊殿の内部には、烏をモチーフにいたステンドグラスも埋め込まれている。
― 出典 ―
- 『東方地霊殿 ~ Subterranean Animism.』 上海アリス幻樂団 2008
― 参考文献 ―
- 『妖怪事典』 村上 健司編著 毎日新聞社 2000
- 『図説 日本未確認生物事典』 世間 良彦著 柏美術出版社 1994
- 『鳥山 石燕 画図百鬼夜行』 高田 衛監修 稲田 篤信/田中 直日編 株式会社国書刊行会 1992
- 『日本と世界の「幽霊・妖怪」がよくわかる本』 多田 克己監修 PHP研究所 2007
- 『幻想動物事典』 草野 巧著 株式会社新紀元社 1997
- 『図説 地図とあらすじで読む 日本の妖怪伝説』 志村 有弘監修 株式会社青春出版社 2008
- 『日本民俗文化資料集大成 第八巻(妖怪)』 谷川 健一編 株式会社三一書房 1988 (特に同書中の『鬼伝説の研究』)
- 『神話伝説辞典』 朝倉 治彦・井之口 章次ら編集 株式会社東京堂出版 S.38
- 『日本民俗語大辞典』 石上 堅著 桜楓社 S.58
- 『イメージ・シンボル大事典』 アド・ド・フリース著 訳者代表・山下 圭一郎 大修館書店 1984
- 『世界シンボル辞典』 J・C・クレーパー著 岩崎 宗治/鈴木 繁夫訳 株式会社三省堂 1992
- 『神話・伝承事典 ―失われた女神たちの復権―』 バーバラ・ウォーカー著 山下 圭一郎訳者代表 株式会社大修館書店 1958
- 『世界シンボル大事典』 ジャン・シュヴァリエ/アラン・ゲールブラン共著 金光 仁三郎訳者代表 株式会社大修館 1996
- 『「日本の神様」がよくわかる本』 戸部 民史著 PHP研究所 2004
- 『日本架空伝承人名事典』 大隅 和雄ら編集 平凡社 1986
- 『ビクトリア現代新百科 4』 渡辺 ひろし編集責任者 株式会社学習研究社 1973
- 『学研 現代新国語辞典 改訂新版』 金田一 春彦著 株式会社学習研究社 1997
- 『ジーニアス英和辞典 第3版』 小西 友七/南出 康世編集主幹 株式会社大修館書店 2003
- 『ジーニアス英和大辞典』 小西 友七/南出 康世編集主幹 株式会社大修館書店 2001
- 『旺文社 シニア英和辞典〔新訂版〕』 小川 芳男編 株式会社旺文社 S.51新訂版発行
- 『プチ・ロワイヤル仏和辞典』 田村 毅ら編 株式会社旺文社 1984重版発行
- 『文様の事典』 岡登 貞治著 東京堂出版 S.43