火焔猫 燐/考察

1.焔の車輪

地獄の輪禍、火焔猫 燐。通称お燐。

その二つ名にある輪禍とは、自動車や電車といった車輪があるものに轢かれるという災難を指す。

一方で、”りんか”の音は燐火(湿地などで自然に燃える火、元素の燐が原因といわれ、昔は鬼火、狐火だと考えられた)と掛けた洒落であると思われる。

これは無論お燐の名にもいえることで、”燐”は”輪”と掛かっているのであろう。

さて、お燐はれっきとした妖怪であり、その種族は”火車”である。

火車とはどのような妖怪なのかというと、葬儀の最中や墓場を襲い、棺の蓋を開けて死体を持ち去るという妖怪である。

お燐の”死体を持ち去る程度の能力”は無論、これに準拠していると考えられる。

ところで、火車の姿は炎に包まれた車(牛車のような外見)であった。

その存在は既に平安時代頃から認知されていたらしく、またその頃は、地獄の獄卒である鬼達が引く車だとされていた。

ところが、時代が下ると火車の姿は一変し、化猫の姿で表されるようになっていった。或いは、猫が化けて火車になるともいわれた。

これは鳥山石燕の『画図百鬼夜行』(江戸時代)にもその姿が人間の大きさほどもあり、炎に包まれた巨大な猫(?)が女性の死体を抱えているという姿で表されていることからも窺える。

ところで、火車が持ち去る死体は生前に罪を犯した咎人の死体であり、持ち去って行く先は地獄であると伝えられることもあったようだ。

これらの火車の概要より、まずお燐が、火車という妖怪でありながら化猫(二股の尻尾を持っていることから普通の猫ではない)であるということが納得できる。

また、咎人の死体を持ち去り、地獄に持ってゆくというところも共通している(劇中では正確にいえば旧地獄であるが)。

スペルカード、 妖怪「火焔の車輪」 も無論この火車に由来を持つし、スペルカード行使中の背景が車輪であることも火車という存在から導けよう。

なお、お燐が持つ”猫車”とは土木工事などで土砂を運ぶ際に用いられるいわゆるあの一輪車のことである。

2.猫と死体

ところで、先に述べた火車との関連以外でも、猫と死体に纏わる俗信は多い。

それは古来より猫が人の手によって飼育され、家の中に入り込んでいた為というのも一因かと思われる。

他にも、その姿や習性など、何らかの要因によって結び付けられたと考えられるが、その由来ははっきりしない。

由来が明確ではない一方で、その俗信は各地に広く信じられていた。

それは例えば、”死人(の部屋)に猫を近づけてはいけない”というものである。これは、(伝承する地域によって乗り移るとか操るとかといったように細部は異なるが)猫の意思で死体を動かす(起き上がらせる、躍らせる)と信じられていたからである。

その前兆として、猫は死体やその棺をまたいだり、上に乗ったりするという。

これを防ぐ為に、逆さ屏風を周りに立てたり、刀などの刃物を死人の枕元、或いは胸元に置いておくといった風習が見られる。

これらは、猫という存在に古人が強い霊性を感じ取ったが故の発想とも見て取れる。

そうした猫の霊性は、プラスにもマイナスにも解釈された。例えば、プラスのものでは猫を飼うなどすると病が治るというものがある。

一方でマイナスのものといえば、黒猫が目の前を横切ると不吉である、というものが著名であろう(地域によってはこれを吉兆とする例もある)。

この外、黒猫は後で化けるとか、殺すと呪われるといったものもある。猫の中でも、黒いものや三毛のものは特に霊物視されたらしい。

猫符「キャッツウォーク」

猫が死体をまたぐと死体が動き出す、或いは黒猫が前を横切ると不吉という俗信がある為であろうか、お燐はスペルカードとして “Cat’s Walk(猫の歩み)”を行使する。

自機の前を何度も横切る為、先述した俗信がモチーフになっている可能性は否定できないだろう。

他にも、猫と死体の関連、或いは黒猫の不吉さからお燐のイメージが構築されている部分があるかもしれない。

3.使役される罪人

劇中にてお燐は、怨霊を用いたスペルカードを多数行使する。

また、スペルカードでなくてもStage 4の最初・途中で対峙した際Stage 5ボスとして対峙した際の通常弾幕にも怨霊を使役している。

呪精「ゾンビフェアリー」

このスペルカードもその一例といえよう。頭の上に光輪を頂いた妖精に怨霊が宿り、動き出して弾をばら撒くスペルカードである。ここにも、猫が死体を操るという俗信が絡んでいる。

ところでゾンビ(Zombie)とは、西インド諸島のヴードゥ教という宗教において、呪術師の手によって蘇った死体を指す。

多くのゾンビは呪術師や主と決められた人間に従順に従い、肉体労働に利用された。

死体である為会話などはできないが、報酬も要らずに使役できる労働力であり、大きな農場などではゾンビを使役して繁栄した、という話もあるそうだ。

ところで、死人全てがゾンビとされるわけではない。死人のうち、特に生前に重罪を犯した人間がその刑罰としてゾンビにされ、奴隷のように働かされていたようだ。

なので、ヴードゥ教徒はゾンビにされることを嫌がって真面目に生きるというように、ゾンビの存在は一種の教化でもあったようだ。

このゾンビの概要から、お燐との共通点が浮かび上がる。

それは、火車が持ち去る死体も、ゾンビにされる死人も、共に罪を犯した咎人の死体が用いられるということである。

劇中で用いているのはフェアリー(Fairy/妖精)なので、罪を犯したかどうかは正直なところ定かではないが、火車とゾンビ、一見縁遠いようでいて、意外なところで共通点を持つ存在である。

恨霊「スプリーンイーター」

Spleen Eater(悪意を喰らう者)。恨みを持つ怨霊が自機を喰らおうと襲ってくる様子を表したものであると考えられる。

ところで、この後に控えているキャラと、このスペルカードの爆発の演出の類似点から、イーターを”ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)”、日米欧露の4極が共同設計を進める国際熱核融合炉のこと、とするのは明らかに深読みだと思われるが、一応記しておく。

なお、イーターはギリシア語で”道”を意味する。弾幕も螺旋状の”道”を抜け続けなければならないというところで共通点は……無いだろう。

贖罪「旧地獄の針山」

贖罪とは罪を償うこと。お燐がいる場所は旧地獄、針山は針の山地獄のことだと思われる。

なお、上位版のスペルカードの名前に出てくる昔時とは、遠い昔を意味する。また、昔時の語は”昔時の業火”というようにStage 5の冒頭のテロップにも出現している。

「死灰復燃」

しかいまたもゆ。火の消えた灰が再び燃えること。原文は

死灰獨復然乎(しかいひとりまたもえんや)

となり、『史記』の「韓長孺列伝」から。文中の”獨”は”独”、”然”は”燃”である。

その昔、法に抵触して投獄された、韓安国という人物がいた。獄中にいるこの人物に対して、獄士が侮蔑の言葉を発した時に韓安国が言い返した言葉が先の言葉である。

今は投獄されてる身だが、いずれ必ず復権してみせる、という意味合い。

これに対して獄士は、(また燃えたら)小便をかけてやる、と言ったという。後、先の言葉通りに韓安国は役人に復職する。

その後、獄士と一悶着あった後に和解し、韓安国は獄士を優遇するというエピソードがあるのだが、ここでは割愛。

劇中では単に、死灰(妖精の死体)が再び燃える(動き出し、弾をばら撒く)という文字通りの演出になっている。

しかし、元となったエピソードには咎人が出現しており、火車というお燐の種族、また 呪精「ゾンビフェアリー」 と演出が類似していることから二度目の使役だ、と捉えると興味深い。

― 出典 ―

  • 『東方地霊殿 ~ Subterranean Animism.』 上海アリス幻樂団 2008
    (劇中のテロップ、キャラ設定.txtなど)

― 参考文献 ―

  • 『日本俗信辞典 -動・植物編-』 鈴木 栄三著 株式会社角川書店 S.57
  • 『幻想動物事典』 草野 巧著 株式会社新紀元社 1997
  • 『日本と世界の「幽霊・妖怪」がよくわかる本』 多田 克己監修 PHP研究所 2007
  • 『妖怪事典』 村上 健司編著 毎日新聞社 2000
  • 『故事名言・由来・ことわざ総解説』 三浦 一郎他51名分担執筆 株式会社自由国民社 1985
  • 『鳥山 石燕 画図百鬼夜行』 高田 衛監修 稲田 篤信/田中 直日編 株式会社国書刊行会 1992
  • 『よくわかる「世界の幻獣(モンスター)」事典』 「世界の幻獣」を研究する会著 株式会社廣済堂 2007
  • 『史記 十一(列伝4)』 青木 五郎著 株式会社明治社院 H.16
  • 『史記の事典』 青木 五郎/中村 嘉弘編著 株式会社大修館書店 2002
  • 『故事ことわざ辞典』 野口 七之輔・日本書院編集部編著 日本書院 S.62
  • 『学研 現代新国語辞典 改訂新版』 金田一 春彦著 株式会社学習研究社 1997
  • 『ジーニアス英和辞典 第3版』 小西 友七/南出 康世編集主幹 株式会社大修館書店 2003
  • 『全訳 漢辞林』 戸川 芳郎監修 佐藤 進・濱口 富士雄編 株式会社三省堂 2002
  • 『原子力辞典』 安成 弘監修 原子力辞典編集委員会編 日刊工業新聞社 1995

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