寅符「ハングリータイガー」
- hungry
- 飢えている、空腹な。
- tiger
- 虎。
ハングリータイガー(hungry tiger…飢えた虎)。
一度身を退いた寅丸 星が突進し、大玉の塊を自機の方向へ放つ。
大玉の塊はパッと見では合計六個に見えるが、塊の中央に真っ白な円形の部分が見えるため七個と考えられる。
飢えた虎というスペルカード名と、自機へ襲いかかる七個の大玉(+寅丸 星自身)という演出から、仏教の説話の一つ「捨身飼虎」の説話がモチーフになっているのではないかと考えられる。
同説話は釈迦の前世の物語の一つで、餓死しかけた虎の親子を救うために、身を投げ出してその肉を食らわせたというもの。
この物語は多くの書物に記されており、各書で多少のバリエーションがある。載せる書物としては『金光明最勝王経』の話が詳しい。他にも『賢愚経』や『大唐西域記』などがある。
また、古代美術では本生図として表され、日本では法隆寺の玉虫厨子に描かれたものが知られる。
物語の概要としては、その昔にある王国があり、三人の王子がいた。第三子の名を薩た(「た」はつちへんに垂)王子といい、ある時、兄二人と共に森の中で遊んでいた。そのとき、三人は生まれて七日ほどの子虎七匹に囲まれて飢えている母虎を見つけた。二兄はその場を去ったが、王子は身を投げ出して虎に我が身を与えた。
しかし虎はその慈悲の威勢によって食べることができず、王子は続けて崖の上から飛び降りて身を捧げたが、またしても虎は食えず、さらに王子は竹で首を切り、その血を舐めさせて虎の体力を回復させ、ついに身を捧げることに成功した、という。
上の話は『金光明最勝王経』に拠るが、『賢愚経』では子虎の数を二匹とし、あるときに老婆と二人の息子がいて、二人の息子が物盗りの罪で死刑になりそうになっているところ、老婆がその場を通りかかった釈迦に助けを求め、釈迦が助けた場面において実は今の老婆と息子二人は前世での母虎と二匹の子虎だったのだとこの親子を二度助けたという話に繋げているように、差異が見られる。
『金光明最勝王経』の話を採るならば、そこでは子虎は七匹、さらに生まれてから七日ほどと言われており、”七”の数字が強調されている。
これについては、『孔子家語』(執轡)など幾つかの古代中国の書物で
七は星を主(つかさど)り、星は虎を主る。虎は故に七月にして生る。
といわれており、(これについては星蓮船雑考ページの09 11/27付けの雑考や雑考ページの永夜抄、09 11/7付けの五虫についての雑考も参照)”虎”と”七”、そして”星”が関連付けて考えられていた(由来は不明)。このことと関連があるように思われる。
一方、寅丸 星に関していえば七福神の一柱・毘沙門天の代理であった。さらに『ダブルスポイラー』でもレベル7に登場しており、何故か七という数字と縁がある。もしかすると、上記の”虎”と”七”の関連を取り入れていたのかもしれない。
― 出典 ―
- 『ダブルスポイラー ~ 東方文花帖』 上海アリス幻樂団製作 2010
- ※ 劇中のスペルカード、文・はたてのコメント など
― 参考文献 ―
- 『昭和新纂国訳大蔵経 経典部 第四巻』 昭和新纂国訳大蔵経編輯部編纂 株式会社東方書院 S.5再版
- 『仏教文学集 中国古典文学大系全60巻 60』 入矢 義高編訳 株式会社平凡社 1975
- 『大唐西域記 中国古典文学大系全60巻 22』 水谷 真成訳 株式会社平凡社 1971
- 『岩波 仏教辞典 第二版』 中本 元/福永 光司ら編 株式会社岩波書店 2002
- 『広辞苑 第六版』 新村 出著 岩波書店 2008
- 『ジーニアス英和辞典 第3版』 小西 友七/南出 康世編集主幹 株式会社大修館書店 2003
- 『漢文大系第53巻 孔子家語』 宇野 精一著 株式会社明治書院 H.8
- 『新漢文大系第54巻 淮南子(上)』 楠山 春樹著 株式会社明治書院 S.54
宝符「黄金の震眩」
- 震眩(しんげん)
- 驚き震えて目が眩むこと。
安直にいけば、宝とは黄金のことを指し、本スペルカードの名は「黄金を目の前にして驚き、震え、そして目が眩む」ということであろうか。
眩むというのは黄金の金属光沢の眩きによるものか、それとも財宝を目の前にして欲に眩んだのかは定かではない。
ただ、文のコメントでは光や目くらましに着目したコメントをしている。一方のはたては「人間が騙されやすいのはこういう力って事なのかな」と語るところから、金銀財宝で飾り立てて説法をし、信奉者を得ようという手口を想像していたのかもしれない。
なお、外連(けれん)とはごまかしやはったりを意味することから、はたてのコメントにある「外連味(けれんみ)溢れる」は言ってしまえばごまかしやはったりを行う気満々、といった感じであろうか。
星としては、自身の「財宝が集まる程度の能力」を用いることで行おうと思えばそうしたことも容易にできたのかもしれない。
本スペルカードの弾幕は星お得意のへにょりレーザーだが、これが黄金・宝による”くらみ”を表していると思われる。
ちなみに、仏教での三宝といえば仏・法・僧のことであるように、法(仏法)は仏教の最重要な宝の一つである。また、法灯(ほうとう)という語が、仏法を衆生の冥暗や蒙昧さを打ち砕き、照らす照明に例えられるように仏法は光に例えられることもある。
もし黄金という単語が”最重要な宝”の例えとして用いられた語だとするならば、それは光にも例えられる仏法を意味し、黄金の震眩とは仏法の光による”くらみ”を意味していた、と考えることもできなくはないだろうか。
加えてもう一言、言語こそ異なるが、金を意味するラテン語 aurum は
光を意味する aur に由来していることも、黄金から光を連想する助けになるのではないだろうか。
― 出典 ―
- 『ダブルスポイラー ~ 東方文花帖』 上海アリス幻樂団製作 2010
- ※ 劇中のスペルカード、文・はたてのコメント など
― 参考文献 ―
- 『例文 仏教語大辞典』 石田 瑞磨著 小学館 1997
- 『岩波 仏教辞典 第二版』 中本 元/福永 光司ら編 株式会社岩波書店 2002
- 『大辞典 下巻』 下中 邦彦編集兼発行者 株式会社平凡社 1974覆刻版
- 『学研 現代新国語辞典 改訂新版』 金田一 春彦著 株式会社学習研究社 1997
- 『古語林』 林 巨樹/安藤 千鶴子編 株式会社大修館 1997
- 『全訳 漢辞海』 戸川 芳郎監修 佐藤 進・濱口 富士雄編 株式会社三省堂 2002
- 『Yahoo!辞書(外連味)』 http://dic.yahoo.co.jp/
- 『アニメ・コミックから読み解く錬金術』 宝島(株) 2004