五虫について・軽く雑考

初版: ’09 11/7

五虫(ごちゅう)とは古代中国の動物に対する観念で、羽蟲・毛蟲・甲蟲・鱗蟲・裸蟲の5つのことです(なお、ここでの蟲は昆虫などの虫のことではなく動物の総称を表しています)。

この五虫のそれぞれについて見てみると、

  • 羽蟲: 羽のある動物
    • 長: 鳳凰
  • 毛蟲: 毛のある動物(蝶の幼虫のような毛虫ではなく、いわゆる獣のこと)
    • 長: 麒麟
  • 甲蟲: 甲羅のある動物
    • 長: 神亀
  • 鱗蟲: 鱗のある動物
    • 長: 蛟竜
  • 裸蟲: 裸の動物
    • 長: 聖人

とされるといいます。

この五虫のことは、『東方永夜抄 ~ Imperishable Night.』で紫がミスティア撃破後に発したセリフ

全く、夜雀風情が

羽蟲の王気取りは、絶望的に早いわ

の中に、五虫の1つである羽蟲の文字を見ることができます。これについて、”夜雀という一介の妖怪が羽蟲の王(つまり鳳凰)を気取るなんて…”というような意味なのではないかということは、遥か昔にPARADOXさんや電子のたまごさんを始めとする方々が考察なさっていました。

また、この五虫は紫のセリフだけでなく、幽々子のセリフにも関連があるのではないか、ということも仄めかされていました。

ところで、今回私はこの五虫について述べている具体的な書物はないのか、と思い調査したところ『広辞苑 第六版』の「五虫」の項の記述から『孔子家語』(執轡)にその記述を発見しました。

その部分のみを以下に引用します(括弧内は返り点を表すものとします)。

故曰。羽蟲三百有六十。而鳳為(二)之長(一)。

毛蟲三百有六十。而麟為(二)之長(一)。

甲蟲三百有六十。而亀為(二)之長(一)。

鱗※ 蟲三百有六十。而龍為(二)之長(一)。

裸蟲三百有六十。而人為(二)之長(一)。

…<後略>

『漢文大系20 淮南子・孔子家語』

  • ※ 原文では”麟”でしたがおそらく”鱗”の誤り。他書の解説などでも”鱗”と表記されていました。

なお、これとほぼ同じ内容は『大戴礼』(易本名)にも記されており、『淮南子』(墜形訓)にも同様の内容が見えるようです。

ところで、この章段の五虫より前にある文章に興味深いことが記されていたので取り上げたいと思います。

天一地二人三。三三如九。

…<中略>…

三九二十七。七主(レ)星。星主(レ)虎。故虎七月而生。

二九十八。八主(レ)風。風為(レ)蟲。故蟲八月而生。

…<後略>

『漢文大系20 淮南子・孔子家語』

この文章は万物と数について述べており、これに拠れば七は星を主つかさどり、星は虎を主るとされています。

また、そのために虎は七ヶ月で生まれる、と(私の稚拙な推測ですが、七と星については北斗七星が背景にあるのでは、と思われます)。

虎と星(あるいは七)との関連は分かりませんが、少なくとも古代中国では既に星と虎は関連付けがなされていたようです。

虎と星、といえば…『東方星蓮船 ~ Undefined Fantastic Object.』のステージ5ボス、寅丸 星が思い起こされますが、何か関連があるのでしょうか。

また、同文では八は風を主るとされています。この二つの文字は、『東方風神録 ~ Mountain of Faith.』のステージ6ボスにして風神である八坂 神奈子を思い起こすことができます。

このように複数のキャラクターを思い起こすことのできる文章が存在するというのはこれが仮に意図的なものがあったにせよ偶然の一致だったにせよ、興味深いことだと思われました。

余談ですが、風は蟲(むし)を主る、故に蟲は八ヶ月で生まれる、という文についても見てみたいと思います。

虫といえば、リグル・ナイトバグ。彼女は『永夜抄』に登場しますが、『永夜抄』は東方Projectの8作目。また、中秋の名月は旧暦の8月15日であり、その月を見ると8という数を見ることができます。このことから、八と虫との接点も推測することができるのではないでしょうか。

― 出典 ―

  • 『東方永夜抄 ~ Imperishable Night.』 上海アリス幻樂団 2004
  • 『東方風神録 ~Mountain of Faith.』 上海アリス幻樂団 2007
  • 『東方星蓮船 ~ Undefined Fantastic Object.』 上海アリス幻樂団 2009

― 参考文献 ―

  • 『漢文大系第53巻 孔子家語』 宇野 精一著 株式会社明治書院 H.8
  • 『漢文大系20 淮南子・孔子家語』 福部宇之吉校訂 合資会社冨山房 T.6四版
  • 『漢文叢書 小学、孝経、孔子家語』 塚本 哲三編輯 有朋堂書店 T.10
  • 『大戴礼』 新田 大作著 株式会社明徳出版社 H.5三版
  • 『広辞苑 第六版』 新村 出著 岩波書店 2008

この記事を書いた人