今回は緋想天でパチュリー・ノーレッジが用いるスキルカード・スペルカードについて。
パチュリーのカードを説明するにはまず、(陰陽)五行説を知る必要がある。
陰陽五行説は、古代中国で考えられていた思想で、この世のあらゆるもの、森羅万象は5つの要素(木・火・土・金・水)から成っている、
という考えである。
この辺りは既に方々のサイトで考察しつくされているので、今更私如きが重箱の隅をつつくようなことを…とも思われるが、一応念の為。
- 木は生命力や伸び出るものを表象し、風の機能も併せ持っている。
- 火は端的に言ってしまえばエネルギー。
- 土は調和や包容、不動を表す。
- 金は革新や裁制を表すという。
- 水は休息や停止、また養生の力があるといわれる。
また、カードを見る上で必要な情報を以下の表に記しておいた(あくまで必要最低限のもののみであるが)。
五行 | 季節 | 色 |
---|---|---|
木 | 春 | 青 |
火 | 夏 | 赤 |
土 | 土用 | 黄 |
金 | 秋 | 白 |
水 | 冬 | 黒 |
これらより、まず下記のスキルカードを読み解く事ができる。
- スプリングウィンド(Spring Wind/春風)
- 木行は季節では春を表し、また木行は風の機能も有する為、spring, wind の各々の単語が想起できる。
- サマーレッド(Summer Red/夏の赤)
- 火行は季節では夏、色では赤で表されることからsummer, red の各々の単語が導ける。
- ドヨースピア(Doyo Spear/土用の槍)
- ドヨーは土用のこと。英語ではない。
他の元素、木火金水は各々春夏秋冬の四季に割り当てられているが、土行だけは該当する季節がない。
その代わりといっては難ではあるが、土行には各々の季節の始まる(立春・立夏・立秋・立冬)の前のおよそ18日間が土用として土行に当てられている。
なお、土用といえば”土用の丑の日”というように、通例は立秋前の夏の土用を指すことが圧倒的に多い。
- ドヨーは土用のこと。英語ではない。
- オータムエッジ(Autumn Edge/秋の刃)
- 金行に割り当てられる季節が秋であること、また、金行であるから金属の刃、と明快な発想。
- ウィンターエレメント(Winter Element/冬の元素)
- 今までと同様に、水行に割り当てられる季節が冬であることから。
エレメントは西洋の地水火風の四大元素や元素、要素。
或いは悪天候を意味することもあるようだが、ここでは冬の元素=水行、ということではないだろうか。
- 今までと同様に、水行に割り当てられる季節が冬であることから。
また、緋想天で新出したスキルカードの幾つかも先述した要素から読み解くことができる。
- サマーフレイム(Summer Flame/夏の炎)
- 先述の通り、火行は夏に当たる為。
- フラッシュオブスプリング(Flush Of Spring/春の芽吹き)
- フラッシュは閃光(Flash)とも考えられるが、木行から春、という連想からするとFlushの方がしっくりくるのでこちらを採用。
なお、Flushはどっと吹き出る現象、例えば人間の顔面の紅潮、或いは水の噴出、感情の迸りなどの他、草木の芽吹きも意味する。
“the spring flush of flowers”というと”咲きほこる春の花”となるように、一気に草木が芽吹く、生気付く様子を表す文になる。
演出も、一気に風が画面を吹き抜けており、まるで春の陽気で草木が一斉に芽吹く様子を表したよう、とも見て取れる。
- フラッシュは閃光(Flash)とも考えられるが、木行から春、という連想からするとFlushの方がしっくりくるのでこちらを採用。
- オータムブレード(Autumn Blade/秋の刃)
- オータムエッジ同様に、金行が秋に当たることから、金属の刃での攻撃。
さらに加えると、火符「アキバサマー」も同様に火行が夏に当たることからの連想であろう。アキバは秋葉原のことだと思われる。
なお、秋葉原の地名は江戸時代に広く浸透した秋葉信仰により、秋葉原の地に秋葉神社が勧請され祀られていたことに由来する(木造家屋が密集する江戸の町では火事が恐れられた)。
また、この秋葉神社は現在は台東区の松が谷に鎮座している。
さらに詳述すると、火伏せの神としての霊験は秋葉山に祀られた秋葉権現…三尺坊大権現に由来する。この三尺坊は愛知県名古屋市の円通寺というお寺で参禅し、鎮防火燭の秘法を感得したと伝えられ、これにより火伏せの神としての信仰が高まったといわれる(なお、三尺坊については活躍の時代などに諸説あるようである)。
その後、明治時代になって神仏分離令により祭神が火之迦具土神(ほのかぐつちのかみ)とされた。ちなみに、火之迦具土神は火の神。無論、以前からの火伏せの神としての霊験もあることもさることながら、火の神だからこそ火という属性で結び付けられたといえるであろう。
さて、続いては残されたスキルカードについて。
- コンデンスドバブル(Condensed Bubble/濃縮された泡)
- 水行の防御特化型、ということで水から泡、防御用ということで、濃縮した、ということか。詳細については不明。
- エメラルドシティ(Emerald City/エメラルドの都)
- 『東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.』でのスペルカード、土&金符「エメラルドメガリス」からの派生、ということであろう。
エメラルドに関して言うなれば、パチュリーはこの他にも錬金術に関わる事物(マーキュリー/水銀 や 賢者の石)をスペルカードとして所持している為、エメラルドメガリス(Emerald Megalith/エメラルドの遺構(巨石))とは、伝説上の錬金術の祖、ヘルメス・トリスメギストスが記したというエメラルド・タブレット(Emerald Tablet/エメラルド板)が下地となっている可能性は高い。
その文章は主に13の項目からなり、万物流転の様子や硫黄と水銀(太陽と月)の二元論的な考え、また、ミクロコスモとマクロコスモの対応などの考えが読み取れる。なお、これがラテン語訳”タビュラ・スマラグダ”となってヨーロッパに伝播し、広く錬金術の奥義書として広まったという。
なお、紅魔郷のパチュリーの二属性以上の複合魔法は五行の”相生”の関係から成立している、というのは有名な話。
木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ずる。各々が木&火符「フォレストブレイズ」、火&土符「ラーヴァクロムレク」、土&金符「エメラルドメガリス」、金&水符「マーキュリポイズン」、水&木符「ウォーターエルフ」に対応している。
一方、萃夢想以降では”相剋”の対応(木は土に剋(か)ち、土は水に剋ち、水は火に剋ち、火は金に剋ち、金は木に剋つ)や、文花帖では月・日の属性を交えた魔法も行使している。
エメラルドシティに話を戻すと、まずその語の由来として考えられるのは小説家ボーム・L・フランク(1856~1919、米)が書いたファンタジー小説、『オズ』シリーズのうちの一作である『エメラルドの都(The Emerald City of Oz)』(1910)が挙げられる。また、米の都市シアトルはエメラルドの都の愛称を持つ。
しかし、これらと作中のスキルカードとの関連は不明。
- 『東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.』でのスペルカード、土&金符「エメラルドメガリス」からの派生、ということであろう。
以下、スペルカードについて。
- 火金符「セントエルモピラー」
- “セントエルモの火(St.Elmo’s Fire)”という現象がある。
これは主に船のマストの先端に発生する放電現象で、雷雨や風雪の時に発生する。マスト以外では、避雷針や塔といった空中に高く突き出たものの先端で見ることができるという。
これを、昔の地中海の船乗り達が伝説の聖人エラスムス(エルモはこの人名の転訛)の魂の出現としたことから、この呼び名になったという。
伝承によっては船乗り達に最悪の事態を告げる予兆とされることもあるが、エラスムスに関しては逆に、最悪の事態を免れたことをつげる兆しであるという。
なお、エラスムスは海上で嵐に遭遇し死んだ人で、船乗り達に”もし嵐から救われる運命にあれば、自分が姿を現すであろう”と言い残したという。これが後、空中放電による発光現象と結びついたものであるという。
ピラー(Pillar)とは柱のこと。セントエルモの火が高い塔状の先端で発生することとの関連もあるかもしれないが、演出から見れば火柱、ということであろう。
ちなみに、火金符、土水符、金木符の3つは五行のうち、”相剋”の関係を表している。
- “セントエルモの火(St.Elmo’s Fire)”という現象がある。
- 土水符「ノエキアンデルージュ」
- ノエキアンデルージュ(Noachian Deludge/ノアの大洪水)。
旧約聖書、創世記第6章~第9章に収められた神話として著名である。ノアの箱舟、といった方が通りが良いかもしれない(なお、ノアの名は第5章や第10章にも出現する)。
世に悪が蔓延ったことから神が地上を一掃しようと決断する。それに当たり、神は誠実であったノアには予めこのことを告げ、箱舟を作って難を逃れることを提言する。ノアはこれに従い、箱舟を作って、各々の動物の二つがいを入れ、神罰である大洪水から逃れた。
なお、洪水は大きな淵から水が溢れ、天空からも凄まじい雨が降り注いだという。四十日間の間。そして、大洪水も四十日間続いたという。
萃夢想でのスペルカード符の弐「デリュージュフォーティディ」は”Deluge Forty Day”、即ち”四十日間の洪水”であり、同じくノアの大洪水を表すものであろう。
- ノエキアンデルージュ(Noachian Deludge/ノアの大洪水)。
- 金木符「エレメンタルハーベスター」
- Elemental Hervester(元素の刈り取り機)。
エレメントに関してはウィンターエレメントの項に記したように、四大元素や要素といった意味がある。相剋の関係の一つ、金剋木ということで木行を刈る金行、という事で金属の刃、ということだろうか。
- Elemental Hervester(元素の刈り取り機)。
- 日符「ロイヤルフレア」
- Royal Flare(王者の炎)。
直訳すれば概ね上記の通り。七曜の王者、ということで太陽(日)、その炎ということだろうか。また、太陽といえばフレア現象がある為、日とフレアという単語は結びつきがあると思われる。
- Royal Flare(王者の炎)。
- 月符「サイレントセレナ」
- Silent Selene(静かなる月)。
Seleneはギリシャ神話の月の女神の名。太陽と月を二元的に捉えた場合、太陽は活動、動的であり、一方の月は静止、静的である。そういったイメージから、静かなる月。
なお、セレナには類似した発音の単語としてserene(静穏)がある。その辺りも兼ねたネーミングであろうか。
- Silent Selene(静かなる月)。
- 火水木金土符「賢者の石」
- 錬金術における最終目標。万物を金に変えるという力を持つとされる他、あらゆる病を治す力も有しているという。
哲学者の石など、多数の別名で呼ばれる。そもそも錬金術は卑金属から金を生成することを目的としていたが、もう一つ、錬金術師の精神面を昇華させる、つまり一種の修行のような側面も持っていたという。
そして、ミクロコスモ(小宇宙、人体)とマクロコスモ(大宇宙、世界)の対応から、自らの精神を洗練してゆくと、それに対応して練成できる金属も次第に高度なものになってゆく、といった思想もあったようだ。
つまり、金属の中で最高ランクに位置づけられた金を練成するということは、自らの精神が最高ランクにまで洗練された、哲学的に見れば生命の根源に辿り着き、英知を手に入れたような境地にまで登り詰めたということになる。
その境地であれば不老不死を得ることもできよう。英知、金を変成、不老不死。それを求め、数多くの錬金術師達が凌ぎを削った、といわれる。
なお、賢者の石の形状については諸説あるが、中世からルネッサンス頃では紅色の粉末というのが一般的なイメージであったという。賢者の石や錬金術の思想についてはこの項のみで説明しきれないが、他の要素については長くなるので割愛。
- 錬金術における最終目標。万物を金に変えるという力を持つとされる他、あらゆる病を治す力も有しているという。
- 水符「ジェリーフィッシュプリンセス」
- Jelly-fish Princess(クラゲの姫)。何故このような名前なのかは不明。
これは憶測だが、『ギルティギア』シリーズ(私は未プレイにつき未詳)に登場するキャラクターにディズィーというキャラクターがおり、「独りにしてください」という、泡を用いた技を持つらしい。
ディズィーがジェリーフィッシュ快賊団なる組織に属していたこと、またプレイヤーキャラの立ち位置らしいので、或いはゲーム中のヒロインであることをプリンセスとでも呼べば、ジェリーフィッシュとプリンセスの単語、また泡を用いた攻撃手段という演出とが結び付けられる…かもしれない。
- Jelly-fish Princess(クラゲの姫)。何故このような名前なのかは不明。
- 月木符「サテライトヒマワリ」
- Satellite Himawari(衛星ひまわり)。
“ひまわり”とは日本が有する気象衛星の名。月が地球の衛星であることから月、ひまわりが植物であることから木の属性になったと考えられる。
演出としては、ひまわりのイメージカラー的な意味で緑(茎・葉部分)と黄(花)の弾幕が降り注ぐ。また、パチュリーを中心として弾が降り注ぐのは、人工衛星からの着想であろうか。
そして、”ひまわり”は気象衛星である。劇中、パチュリーは気象が異変であるとして調査していた為、気象衛星のスペルカードを用いた、という関連性も窺える。
- Satellite Himawari(衛星ひまわり)。
- 日木符「フォトシンセシス」
- Photosynthesis(光合成)。
植物(主にクロロフィルを持つもの)が光エネルギーを利用して、二酸化炭素CO~2と水H~2Oから有機化合物を合成する反応、過程を指す。植物体内で生成された合成物はデンプン・たんぱく質・脂肪などにも作り変えられ、植物を構成する材料となる。
植物(木)が光エネルギー、とりわけ自然界では日光(日)を利用するので、日木符。
演出としては、光合成のように集束された光の場にパチュリーがいると、光合成で養分が生成されるように霊力が充填される、ということであろう。
- Photosynthesis(光合成)。
- 月金符「サンシャインリフレクター」
- Sunshine Reflector(日光反射器)。
月は日光を反射することで夜空に輝いている。金属は特有の金属光沢という性質を持ち、光を反射する性質を持つ。
故に、これらを併せて日光を反射するという性質を引き出したものがこのスペルカードであろう。
なお、演出も反射器の名前よろしく六角形の金属板と思しきパネルにこちらの攻撃を当てると撃ち返し弾が発生する。
- Sunshine Reflector(日光反射器)。
― 出典 ―
- 『東方緋想天 ~ Scarlet Weather Rhapsody.』 上海アリス幻樂団/黄昏フロンティア 2008
- 『東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.』 上海アリス幻樂団 2002
- 『東方萃夢想 ~Immaterial and Missing Power.』 上海アリス幻樂団/黄昏フロンティア 2004
― 参考文献 ―
- 『増補版 運勢大事典』 矢島 俯仰編著 株式会社国書刊 H.8
- 『ジーニアス英和辞典 第3版』 小西 友七/南出 康世編集主幹 株式会社大修館書店 2003
- 『日本神祇由来事典』 川口 謙二編集 柏書房株式会社 1993
- 『日本を知る事典』 大島 建彦・大森 志郎ら編集 株式会社社会思想社 S.46
- 『旧約 新約聖書』 バルバローデル・コル訳 1964(※発行会社記述忘れ)
- 『イメージ・シンボル大事典』 アド・ド・フリース著 訳者代表・山下 圭一郎 大修館書店 1984
- 『アニメ・コミックから読み解く錬金術』 宝島(株) 2004
- 『記号・図説 錬金術事典』 大槻 真一郎著 株式会社同学社 1996
- 『ビクトリア現代新百科 5』 渡辺 ひろし編集責任者 株式会社学習研究社 1973
- 『ビクトリア現代新百科 7』 渡辺 ひろし編集責任者 株式会社学習研究社 1973
- 『平凡社大百科事典 5』 大中 邦彦編集発行人 平凡社 1984
- 『図説 妖精百科事典』 アンナ・フランクリン著/井辻 朱美監訳 株式会社東洋書林 2004
- 『図説 ファンタジー百科事典』 デイヴィッド・プリングル編/井辻 朱美 日本語版監修 株式会社東洋書林 2002