チルノのストーリーモードで霧雨 魔理沙が行使する新たなスペルカード、星符「エキセントリックアステロイド」。その名は”Eccentric Asteroid(常軌を逸した小惑星)”と直訳できる。
一方で、天文学、特に太陽系外惑星において”エキセントリック・プラネット”という呼称の天体が存在するという。
この星がどのようなものかを説明するために、まず”軌道遠心率”について見てみる。ある惑星に着目した時、その惑星系の中心にある恒星と惑星自身との距離は、一回の公転の間でもその軌道によって変動する(変動する場ということは、その軌道が完全な円形ではないということ)。その平均距離に対して、プラスマイナスで何パーセント変動するのかを数値化したものを”軌道遠心率”という。
例えば、太陽系の惑星は(水星を除いて)いずれもこの数値が0.1(1パーセント)に満たない、ほぼ真円に近い状態で公転している。
しかし、太陽系外にあるエキセントリック・プラネットは、この軌道遠心率が大きい惑星の俗称に近い呼び名であるという(例えばエリダヌス座イプシロン星bは0.61、HD222582bは0.71)。これらの惑星は太陽系の惑星からでは想像できないほどその軌道が歪んで(楕円形になって)いる。
そこで、天文学で”偏心軌道の、楕円軌道の”という意味を持つと同時に、”常軌を逸した”という意味を持つ”Eccentric”の語が名として与えられたのだという(しかし、発見された系外惑星の2/3がこうした惑星であり、
エキセントリック・プラネットはむしろ普通の惑星のようであるが)。
こうしたエキセントリック・プラネットと呼ばれるような惑星の特徴としては、その公転軌道が大きく歪んでいるために、極端に恒星との距離が変動するということが挙げられる。そのため、恒星への接近・離脱に伴って
惑星表面に到達する恒星の光などの量も極端に増減する。従って、惑星表面の温度は一回の公転の間に極端に変動するという。
このような惑星がどうやって形成されたかというと、一つ目として、惑星が最初からこうした楕円軌道を持った状態で形成されたという考え、二つ目に元々は円軌道であったものが何らかの原因で楕円軌道に変化していったという考えの二つに大分される。
現在エキセントリック・プラネットの形成を考えるために提案された「円盤重力モデル」、「伴星重力モデル」、「ジャンピング・ジュピターモデル」の三つはいずれも後者の考えに基づいているようである。
中でも、最後のジャピング・ジュピターモデルは、ある惑星系において惑星が形成された後、惑星同士の重力の影響によって惑星の軌道が歪み、楕円化するという考えらしい。この作用によって、あるものは惑星系の外に飛び出し、またあるものは惑星同士で衝突したりするかもしれない、と指摘されている。そうした結果としてエキセントリック・プラネットが残るのではないか、という。
さて、このエキセントリック・プラネットと星符「エキセントリックアステロイド」の両者を見比べてみたい。
そこでまず目に付くのは、”エキセントリック”の語の合致、また、プラネット(惑星)とアステロイド(小惑星)という両者の名前の類似である。
加えて、星符「エキセントリックアステロイド」の弾幕は箒を振り回している魔理沙を中心としてお馴染みの星形の弾幕が生じ、合図と同時に拡散するというものである。ここで、魔理沙を一つの系の中心に位置する恒星に見立てると、周囲を旋回する星形の弾は恒星の周りを公転する惑星に見立てられそうである。そして、その星形の弾が拡散する様子は先述したジャンピング・ジュピターモデルの惑星の動きに重ねて考えることはできないだろうか(ただし星形の弾が拡散した後、魔理沙の周囲に残る星形の弾はなく、エキセントリック・プラネット(楕円軌道を描いて回り続ける星)は形成されないようであるが…)。
もし、先のように考えることが許されるのであれば、名称の類似と弾幕の動きの両面を以って、星符「エキセントリックアステロイド」のモチーフはエキセントリック・プラネットだと考えられるのではないだろうか。
なお、もしそうであるならば、空の「ホットジュピター落下モデル」と同様にエキセントリック・プラネットも系外惑星の話であるため、やはり『東方非想天則』が『東方緋想天』の番外編的な位置付けであるためにモチーフとして踏襲されたと考えられるかもしれない。
― 出典 ―
- 『東方非想天則 超弩級ギニョルの謎を追え』 上海アリス幻樂団/黄昏フロンティア 2009
― 参考文献 ―
- 『異形の惑星 系外惑星形成論から』 井田 茂著 日本放送出版協会 2003
- エキセントリック・プラネット - Wikipedia