初版: ’08 11/28
魂魄 妖夢スペルカード、天上剣「天人の五衰」について。
『東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.』において、魂魄 妖夢が行使したスペルカードの一つ、天上剣「天人の五衰」。
その名称に冠される”天上”とは、他のスペルカードとの対応から仏教の六道の一つ、”天上界(天界)”に由来すると考えられる。この天上界に住む者が天人(天人はまた飛天といったり、特に女性が多いことから天女といったりする場合もある)である。
しかし、この天上界に住まう天人といえどもその命は永久ではない。
それは、天上界が六道の一つに数えられていることからも窺い知れる。つまり、天人もいずれは死ぬ存在である。そして、この天人が死ぬ間際には五つの前兆が現れるという。これを、「天人の五衰」という。
その内容については古来より諸説あり、一定ではない。以下、そのうちの幾つかを挙げてみたいと思う。
例えば、『往生要集』では
一には頭の上の花鬘(はなかづら)忽ちに萎み、
二には天衣、塵垢に著(けが)され、
三には腋の下より汗出て、
四には両の目がしばしば眩(くるめ)き、
五には本居を楽しまざるなり。
と記されている。また、これに続けて、
この相現ずる時、天女、眷属、悉く遠離してこれを棄つること草の如し。…(後略)
とある。つまり、五衰が現れた天人からは天女や眷属が離れ、草のように捨てられてしまうようだ。
ところで、この五つの相については『仏本行集経』(巻五)では先述と比べ、
四、身威光を失う
としており、『摩訶摩耶経』(巻下)では
三、頂中の光滅す
としているという。さらに、『増一阿含経』(巻二十四)には、
一、華冠自ら萎み
二、衣裳垢フン(フンは”つちへん”に”分”)
三、腋下より汗を流す
四、本位を楽はず
五、王女違返す
とあり、小異ではあるがやはり先述までのものと異なっている。この他には、『倶舎論』(巻十)のように五衰を小五衰、大五衰に分ける説もあるようだ(その内容については、大五衰が先述した五衰とほぼ重なっている)。
そうして諸説がある「天人の五衰」ではあるが、その中でもその記述に関しては『大般涅槃経』に記されているものが著名のようである。これに拠るのであれば、
一、衣裳垢穢
二、頭上花萎
三、身体臭穢
四、腋下汗流
五、不楽本座
がその相であるという。なお、このうちの「頭上花萎」と「不楽本座」は
『東方緋想天 ~ Scarlet Weather Rhapsody.』の小野塚 小町のストーリーにて小町と天子とが対峙した際のテロップや会話の中にも登場していることは一瞥を払うべきであろう。
― 出典 ―
- 『東方妖々夢 ~Perfect Cherry Blossom.』 上海アリス幻樂団 2003
- 『東方緋想天 ~ Scarlet Weather Rhapsody.』 上海アリス幻樂団/黄昏フロンティア 2008
― 参考文献 ―
- 『往生要集 上』 石田 瑞麿訳注者 株式会社岩波書店 1992
- 『例文 仏教語大辞典』 石田 瑞磨著 小学館 1997
- 『仏教用語事典』 須藤 隆仙著 株式会社新人物往来社 1993
- 『故事ことわざの事典』 尚学図書編集 小学館 S.61
- 『佛教大語辭彙 第五巻』 龍谷大学(花田 凌雲代表) 合資会社冨山房出版 S.49