魂魄 妖夢 業風と由旬雑考

初版: ’08 11/26

妖夢のスペルカードについて雑考(既に幾つもの考察サイトで取り上げられているとは思いますが…)。

今回は獄界剣、獄炎剣、獄神剣について。

最初に”獄界”の語については、『妖々夢』中で妖夢の用いるスペルカードが各々仏教の六道(人界、天界、修羅界、畜趣界、餓鬼界、地獄/ただし経典や宗派によって名称などが異なる場合がある)に準拠していることから、地獄を指す言葉と思われる。

『往生要集』の中で描写される地獄は、特に炎熱による責めがかなり詳細に記されている。地獄の様子を記した文章の殆どは八熱地獄(八大地獄)の説明に費やされていることからもそれは窺える。その点から、地獄で”炎”という連想ができると考えられないだろうか。

一方、以下は各々の名称について見てみたい。

まずは「業風閃影陣」、「業風神閃斬」から。

“業”とは、その人間の意志を伴った心身の活動や行為とされる。因果応報の観念からすれば、業は必ずその人間に対して果を報いると考えられた。

それが悪業であれば、苦痛をもたらすことになる。その悪業の強い力を風に例えた語が”業風”であるという。また、地獄に吹く風を業風ということもあるようだ。

『往生要集』にも八熱地獄の第七、大焦熱地獄の説明にて

一切の風の中には業風を第一とす。

かくの如き業風、悪業の人を将(ひき)ゐ去りて、かの処に到る。

と記している。これから察するに、悪業を働いた者をこの地獄に連れてくるのが、この風のようである。

余談ではあるが、『往生要集』の地獄の中で、この業風の他にも風が関連する場所が幾つか存在する。

例えば、八熱地獄の第一、等活地獄の別処の五番目に数えられる”闇冥処”では、罪人は常に闇火で焼かれているという。そこで

大力の猛風、金剛の山を吹き、合せ磨り、合せ砕くこと

猶し沙(すな)を散らすが如し。

と記されている。また、同所では鋭い刀に割かれるような熱風も吹くという。

次に、同地獄の第六、焦熱地獄の別処の一つ”闇火風”では罪人が悪風に吹かれ、つかまるところも無く虚空を飛ばされ、そのうち、また違った太刀風によって身を砕かれ粉々になるという。この他にも、同地獄の第二、黒縄地獄でも悪風によって熱鉄の縄が罪人に絡まる、というところで風が関係している。

さて、業風に続いて今度は「二百由旬の一閃」について。

“由旬”は梵語 yojana の音写で、古代インドの距離の単位を表す。

その意味するところは、くびきをつけるという意味で、牛に車をつけて一日ひかせる行程を指すという。

その距離については諸説あり一定ではない。一例としては、約七マイル(一一.二キロメートルほど)或いは九マイルといわれたりする。また、一説には一四.四キロメートルとされることもあるようだ。

ところで、『往生要集』では大焦熱地獄にて閻羅人が呵責する際に言う言葉の中に火聚(かじゅ)の説明として

その聚(あつまり)、挙れる高さ五百由旬なり。

その量、寛く広がれること二百由旬なり。

炎の燃えて熾盛なるは、かの人の所作の悪業の勢力なり。

と記されており、”二百由旬”という言葉が用いられている。また、その炎の勢いは人の悪業に因るようであり、そこに”業”、ひいては業風との関連が見えなくも無いのではないだろうか。

― 出典 ―

  • 『東方妖々夢 ~Perfect Cherry Blossom.』 上海アリス幻樂団 2003

- 参考文献 -

  • 『往生要集 上』 石田 瑞麿訳注者 株式会社岩波書店 1992
  • 『往生要集』 中村 元著 株式会社岩波書店 1983
  • 『例文 仏教語大辞典』 石田 瑞磨著 小学館 1997
  • 『岩波 仏教辞典 第二版』 中本 元/福永 光司ら編 株式会社岩波書店 2002
  • 『仏教用語事典』 須藤 隆仙著 株式会社新人物往来社 1993

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