東風谷 早苗補考 ― 道満晴明 ―

神霊を一子相伝の秘術で招き寄せ、奇跡を起こす風祝(かぜはふり)東風谷 早苗。
彼女は秘術「グレイソーマタージ」や準備「神風を喚ぶ星の儀式」といったスペルカードに加え、Stage5道中やボス戦開始直後に五芒星の形の弾幕を展開した。

日本において五芒星の印は平安時代の有力な陰陽師・安倍晴明が多用し、”晴明桔梗印”の別名も持つことなどは本考でも述べた。しかし、この印が何故魔除けの意味を持つのかなど、細かな点の詳述については本考で述べることができなかった。

そこで、ここでは新たな事項と共にそれらの点について詳述することを試みたい。

まず、この晴明桔梗印が魔除けの力を持つとされるのはその形に由来することについて述べたいと思う。それは、この五つの頂点を持つ星の形が、陰陽五行説における元素(木、火、土、金、水)の

  • 相生(そうしょう)
    • 木生火、火生土、土生金、金生水、水生木
  • 相剋(そうこく)
    • 金剋木、火剋金、水剋火、土剋水、木剋土

の関係を表象し、その相互作用によって五行より成る万物の清浄を保つ、即ち不浄を退ける(魔除け)為だという。

ところで、『東方地霊殿 ~Subterranean Animism.』では、衝撃的な事実が判明した。

Stage Extra、その道中において霊夢と魔理沙は再び、東風谷 早苗と対峙することになったのである。

突如として姿を見せた彼女が手にしたスペルカード、それは秘法「九字刺し」であった。

“九字”とは、晴明桔梗印に並び、強力な魔除けの力を持つと考えられていた印である。その印は縦四横五の直線を交差させた格子状の形より成る。

それは、劇中のスペルカードではマスの目状に交差するレーザーによって表現されていた。

また、この印はしるしとしてだけではなく、”九字法”という一種の呪法として実践されることもあった。

それは、手で宙を縦四横五の直線の形に切りつつ、”臨、兵、闘、者、皆、陳、列、在、前”の呪文を唱えるというものである。

なお、この九字法は後に修験道や陰陽道、密教に広まり、刀印を結んで九字を切る、種々の印契いんげいを結印するというように所作が変化している場合もある。

これらに対し、上記の縦四横五の直線を切る仕草はより速く行うことができる為、”早九字”と称されることもある。

この”九字”は元々、中国の道士の間に伝えられていた呪術で、『抱朴子』内篇(葛洪かっこう著)の「臨兵闘者皆棟列在前行」に由来し、”六甲秘呪”とも称されていたようだ。

そして、この呪法は山に立ち入る際に行われ、一切の魔性から身を守る護身法であったという。それが修験道や陰陽道、密教に採り入れられ、やがて調伏的な要素が強められたらしい。

そのいずれにせよ、一切の魔を退ける強力な魔除けの意味合いを持っていたことは違いない。

そして、日本ではこの九字をよく用いていた人物がいた。

その名は、葦屋道満(あしやどうまん)。

安倍晴明と拮抗するほどの力を備えた陰陽師である。その為、この道満の名を以って九字の印を”ドーマン”と呼ぶこともある。一方の晴明桔梗印も、三重県志摩地方の海女が魔除けの印として用い、”セーマン”と呼んでいたという。そこで、この二つの印を並べて”ドーマン・セーマン(セーマン・ドーマン)”と称することもある。

なお、この二人の陰陽師の名は『東方妖々夢 ~Perfect Cherry Blossom.』において橙が、陰陽「道満晴明」という、自身が晴明桔梗印の形に動くスペルカードの名として用いていた。

一方、晴明桔梗印、九字の二つの印が共に強力な魔除けの力を持ち、それはこれらの形を持つ籠の目(カゴメ)にも同様の力が信じられていたことは本考でも述べた。

ところで、東風谷 早苗が新たにこの秘法「九字刺し」のスペルカードを用いることで、新たなことが判明した。

それは、既存の一子相伝である”秘術”と、この”秘法”との間に関連性があると思われることである。

これは、先述のように晴明桔梗印と九字が対比されて並べて用いられることが多く、また、九字刺しに冠された名は”秘法”、既存の晴明桔梗印を用いていたスペルカードには”秘術”と冠されており、秘法と秘術の名称や意味合いが類似している為である。

そこで仮に、秘法「九字刺し」が秘術と称するスペルカード、或いは奇跡を起こす一子相伝の秘術の系統に連なるものであると仮定する。すると、秘法「九字刺し」が行使されたのは戦闘の最初であることから、秘術系や準備系のスペルカードと同様の意味合い…即ち、後の奇跡を起こす為の前準備として行使されたスペルカードではないか、と考えることができるのである。

その意図が、神霊を招き寄せる為にその場を神霊降臨の聖域として選定し、浄化・潔斎させる為であるのか。

はたまた本考で述べたように、神霊を招き寄せ宿らせる為の”器”として用いたものなのかは判らない。ただし、秘法と秘術というその名称の類似、晴明桔梗印と九字の対比、また、そのスペルカードを行使する順番、それらから、『東方風神録 ~Mountain of Faith.』で用いていた一子相伝の秘術の系統に連なるスペルカードであると考えることは、十分に可能と思われる。

― 出典 ―

  • 『東方風神録 ~ Mountain of Faith.』 上海アリス幻樂団 2007
  • 『東方地霊殿 ~ Subterranean Animism.』 上海アリス幻樂団 2008
  • 『東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.』 上海アリス幻樂団 2003

- 参考文献 -

  • 『図説日本呪術全書』 豊島 泰国著 株式会社原書房 1998
  • 『例文 仏教語大辞典』 石田 瑞磨著 小学館 1997
  • 『仏教民俗辞典』 仏教民俗学会編著 株式会社新人物往来社 1993
  • 『仏教用語事典』 須藤 隆仙著 株式会社新人物往来社 1993

この記事を書いた人