雷符「ライトニングフィッシュ」
- lightning
- 稲妻、電光。
- fish
- 魚。
直訳すれば「稲妻の魚、雷魚」となる。
直接的には、衣玖のモチーフとなった深海魚・リュウグウノツカイと、衣玖の雷を使った攻撃方法からのネーミングであろうと考えられる。
湾曲して飛んでくる細長いレーザーも、リュウグウノツカイの形状からか。
次に、スペルカードの名前に着目することにする。
日本には「雷魚」と表記して呼ばれる魚は大きく分けて二種類ある。一つは「ライギョ」であり、もう一つは「カミナリウオ」である。
ライギョ
ライギョと呼ばれる魚は、細かく区別すると二種類ある。一つはタイワンドジョウ(スズキ目タイワンドジョウ科、学名:Channa maculata)で、もう一つはカムルチー(スズキ目タイワンドジョウ科、学名:Channa argus)である。
タイワンドジョウの原産地は中国南部・ベトナム・フィリピンとされ、日本には明治末~大正始め頃に台湾から輸入されたという。
全長50~60cm程度の細長い形状をしている。なお、ライギョの呼び名は台湾でのタイワンドジョウの呼び名、ライヒー(ヒーは魚の意)に由来する。
また、ベンガル地方では、雨季に入ると草の間から這い出してくる姿が目撃されるため「雨と共に降ってくる魚」と信じられていたという。
一方のカムルチーは長江(揚子江)からアムール川までの中国中部~北部と朝鮮半島に分布する。日本には大正末頃に輸入され、カムルチーの名も朝鮮名に由来するという。
全長は大きいと85cmにも及ぶといい、タイワンドジョウと酷似するため
この二種を総称してライギョと呼ぶ。
なお、カムルチーと思しき魚が生きたまま日本に来舶したという話(文化年間)が栗本丹洲『皇和魚譜』に記されている。
カミナリウオ
鰰、雷魚、燭魚などの文字が当てられるハタハタ(スズキ目ハタハタ科、学名:Arctoscopus japonicus)がそれである。
北日本の太平洋側等に生息し、全長15~28cmくらいで体はどちらかといえば細長い(ライギョほどではない)という。
産卵期の11~12月頃沿岸部に群遊し、それが見られる秋田等では、丁度その頃に雷がよく鳴ることからハタハタをカミナリウオと呼ぶようだ。
本スペルカードでの名称等から直接の由来となった魚を断定することは難しい。
冒頭で述べたように、スペルカード中のレーザー弾がライトニングフィッシュを表しているのであれば、リュウグウノツカイを表しているものだと考えることもできる。
スペルカード名との関連を考えるならば、ライギョかカミナリウオか、という風に考えることもできるが、その場合はより形が細長いライギョの方が基になっている、と考えることはできそうである。
あるいは、併せて丸弾がハタハタを表しており、両者が共演しているとも考えられるかもしれない。
― 出典 ―
- 『ダブルスポイラー ~ 東方文花帖』 上海アリス幻樂団製作 2010
- ※ 劇中のスペルカード、文・はたてのコメント など
― 参考文献 ―
- 『世界大博物鑑 第2巻 [魚類]』 荒俣 宏著 株式会社平凡社 1989
- 『図説 魚と貝の大事典』 望月 賢二監修 柏書房株式会社 1997
- 『平凡社 大百科事典 11』 下中 邦彦編集発行人 平凡社 1985
- 『平凡社 大百科事典 15』 下中 邦彦編集発行人 平凡社 1985
- 『広辞苑 第六版』 新村 出著 岩波書店 2008
- 『Wikipedia(「ハタハタ」)』 http://ja.wikipedia.org/wiki/
龍宮「タイヤヒラメダンス」
「タイヤヒラメ」は唱歌『浦島太郎』(文部省唱歌。作詞・作曲者不明)の2番の歌詞
鯛や比目魚(ヒラメ)の舞踊(まいおどり)
からと思われる。同曲は明治44(1911)年6月28日刊行の『尋常小学唱歌第二学年用』に収録されたが、そのストーリーは古代から伝わる浦島太郎の伝説というよりも明治期の児童文学者・巌谷 小波(いわや さざなみ)氏による『浦島太郎』(『日本昔噺』第十八編、明治29(1896)年)の内容に近い。
事実、文献の形で残る浦島太郎伝説の最古の例である『丹後国風土記逸文』(奈良時代)では浦島太郎が虐められていた亀を助ける話は存在しないし、上記のような鯛やヒラメが舞いを披露したという場面も見られない(そもそもこの時代は名前も「浦島太郎」とは記されず、「水江浦嶼子」と記述されていた)。
この点は『丹後国風土記逸文』と同じく、古代の浦島太郎伝説を伝える『日本書紀』や『万葉集』でも同様のようだ(ここでは近~現代における昔話・浦島太郎と、奈良時代の水江浦嶼子の伝説とを比較することが目的ではないので、差異についてはこの程度で止めておこうと思う)。
なお、浦島太郎が連れて行かれた場所は蓬莱(とこよのくに)とされていたが、時代が下ると竜宮とされることが多くなった。
本スペルカードに冠される「龍宮」の語も、これを受けたものと思われる。さらにいえば、衣玖が竜宮の使いであるため、竜宮繋がりで本スペルカードを行使したのだろう。
次に、スペルカードの名称にも登場する二種の魚について見てみたい。
まず、鯛はスズキ目タイ科Sparidaeに属す魚の総称。狭義ではタイ科のマダイを指す。和名はその形が平らであることから「たいら魚」の意味だという。日本の魚の中では「めでたい」の語呂や赤という色から尊ばれ、祭り事や祝事に出される魚として重宝される。
なお、『古事記』ではいわゆる海幸彦・山幸彦の神話で、海幸彦こと火照命の釣り針を飲み込んでいたのが鯛であった。
一方、ヒラメはカレイ目ヒラメ科Paralichthyidaeに属す魚の総称。狭義ではヒラメ科に属す魚の一種としてのヒラメを指す。和名は扁平な魚の意味。漢字では鮃・平目という表記の他、冒頭にあるように比目魚という表記もある。
日本では俗に「左ヒラメ右カレイ」といって、目の位置でヒラメとカレイを区別する(ただし世界ではヒラメの中でも右側に目が寄っている種類も存在するが)。
以上のことから、鯛もヒラメもその形が平らであることが和名の由来となっていることが分かる。
よって、本スペルカードの弾幕であるポイフル弾はこの鯛やヒラメの扁平な形を表したもの、弾の赤色は鯛の色を表したものと考えられる。それらが群れをなして泳ぐ様子を表したのが、本スペルカードではないかと思われる。
― 出典 ―
- 『ダブルスポイラー ~ 東方文花帖』 上海アリス幻樂団製作 2010
- ※ 劇中のスペルカード、文・はたてのコメント など
― 参考文献 ―
- 『日本童謡事典』 上 笙一郎編 株式会社東京堂出版 2005
- 『日本「神話・伝説」総覧』 宮田 登ほか著 大日本印刷株式会社 H.5
- 『日本民俗大辞典 上』 福田 アジオら編集 株式会社吉川弘文館 1999
- 『日本神祇由来事典』 川口 謙二編集 柏書房株式会社 1993
- 『世界大博物鑑 第2巻 [魚類]』 荒俣 宏著 株式会社平凡社 1989
- 『古事記 日本思想大系1』 青木 和夫/石母田(いしもだ) 正/小林 芳規/佐伯 有清 株式会社岩波書店 1982
- 『日本古典文学大系 2 風土記』 秋本 吉郎校注 株式会社岩波書店 1958
- 『Wikipedia(「鯛」、「マダイ」、「ヒラメ」)』 http://ja.wikipedia.org/wiki/