熔解「メルティングホワイト」
- 熔解(ようかい)
- 固体が熱を受けて液状になること。あるいは、液状にさせること。溶解・鎔解とも書く。なお、”熔”の字は単体で固体を加熱し、液状にする意を持つ。
- melting
- 溶ける、溶融(溶解)する。
- white
- 白、白色、白いもの。
カタカナ部を直訳すると、「熔解する白色」あるいは「溶解中の白」といった意味になろうか。
物体は高温に熱せられると白色に近い色を発する。特に、金属を摂氏1000度以上に熱した場合などに見られる(白熱)。本スペルは、太陽(表面温度はおよそ6000度、中心温度はおよそ1600万度といわれる)や核融合炉で核融合反応を起こすような温度(およそ数億度が必要とされる)といった超高温によって、物質が熔解し、白熱する状態を表したもの、と考えられるのではないか。
あるいは、meltingの語から原子炉の炉心融解(melt down / 原子燃料や炉心構造物が異常加熱し、融解を起こすこと)もモチーフとして含まれているのであろうか。
― 出典 ―
- 『ダブルスポイラー ~ 東方文花帖』 上海アリス幻樂団製作 2010
- ※ 劇中のスペルカード、文・はたてのコメント など
― 参考文献 ―
- 『広辞苑 第六版』 新村 出著 岩波書店 2008
- 『学研 現代新国語辞典 改訂新版』 金田一 春彦著 株式会社学習研究社 1997
- 『全訳 漢辞海』 戸川 芳郎監修 佐藤 進・濱口 富士雄編 株式会社三省堂 2002
- 『ランダムハウス大英和辞典 第2版』 小学館ランダムハウス英和大辞典第二版編集委員会編 小西 友七/安井 稔/國廣 哲彌/堀内 克明編集主幹 S. B.フレックスナー編集顧問 小学館 1994
- 『ジーニアス英和辞典 第3版』 小西 友七/南出 康世編集主幹 株式会社大修館書店 2003
- 『ジーニアス英和大辞典』 小西 友七/南出 康世編集主幹 株式会社大修館書店 2001
- 『平凡社 大百科事典 9』 下中 邦彦編集発行人 平凡社 1985
- 『火の百科事典 火・熱・光―プロメテウスからロケットまで』 樺山 紘一/河野 通方/下村 道子/徳本 恒徳/平野 敏右編 丸善(株)出版事業部 1999
- 『原子力辞典』 安成 弘監修 原子力辞典編集委員会編 日刊工業新聞社 1995
- 『原子力のすべて』 「原子力のすべて」編集委員会編
- 『核融合炉工学概論 ― 未来エネルギーへの挑戦 ―』 関 昌弘編 日刊工業新聞社 2001
- 『Wikipedia(核融合炉)』 http://ja.wikipedia.org/wiki/
巨星「レッドジャイアント」
red giant(赤色巨星)。
ヘルツシュプルング・ラッセル(HR)図において、右上に位置する恒星の名称。主系列星の段階を終えて、膨張したために表面温度が低下し、赤く見える星のこと。その半径は太陽の数十倍にも及ぶという。
具体的に見ると、赤色巨星になる恒星の内部において、中心部では核融合反応の反応物である水素が使い果たされ、生成されたヘリウムが蓄積する。その中心部は自身の重力によって収縮し、その際の重力エネルギーによって熱が発生する。この熱によって中心部のすぐ外側に残っている水素の層では核融合反応が加速され、反応によって発生する熱によって外層は膨張しようとする。この力が重力による収縮を上回り、膨張する。そして膨張によって相対的に表面温度が下がるため、赤色を帯びる、という具合である。
赤色巨星は比較的古い星団や銀河を構成する主要な要素である上、比較的容易に観測できるため恒星系の進化段階を示す指標としても重要視される。
本スペルでは、おくうの纏う巨大な赤い球体が徐々に巨大化していく様子から、恒星が赤色巨星に進化していく様子を現すスペルカードではないかと考えられる。
おくう自身は太陽の力である核融合を操ることから、恒星に関係するスペルカードを使用する。本スペルカードもそのうちの一つであろう。
― 出典 ―
- 『ダブルスポイラー ~ 東方文花帖』 上海アリス幻樂団製作 2010
- ※ 劇中のスペルカード、文・はたてのコメント など
― 参考文献 ―
- 『広辞苑 第六版』 新村 出著 岩波書店 2008
- 『平凡社 大百科事典 8』 下中 邦彦編集発行人 平凡社 1985
- 『天文学辞典』 鈴木 敬信著 株式会社地人書館 S.61
- 『天文の辞典』 堀 源一郎/日江井 栄二郎/若生 康二朗/編 株式会社朝倉書店 1989
- 『Wikipedia(赤色巨星、主系列星)』 http://ja.wikipedia.org/wiki/
星符「巨星堕つ」
- 巨星
- 恒星のうち、その半径や光度が大きい星。偉大な人物のこと。
“巨星堕つ”とは、偉大な人物が死ぬことを表す。特に有名なものとしては、『三国志演義』において諸葛亮孔明が死亡したときに星が落ちたという話がある。
その場面を記した話のタイトルには(少なくとも訳書では)
大星隕(お)ちて漢の丞相天に帰し
とある(隕の字は”かばねへん”に”員”の字で表されることもある)。
これより、意味はおおよそ同じではあるが「巨星堕つ」という表現ではないことが窺える。
ところで、『晋陽秋』に拠れば、孔明が死亡したときの星は赤く、東北より西南に流れて孔明の陣中に三度落ちたと伝えられている。赤い色という点では、スペルカード中の弾幕と一致するが、おくうの用いる弾は全てこの色なのでこのスペルカードに限ったことではない。
弾幕は巨星(赤く巨大な弾)が画面下方に落下する、ということでこの慣用句をそのまま表しているものと思われる。
― 出典 ―
- 『ダブルスポイラー ~ 東方文花帖』 上海アリス幻樂団製作 2010
- ※ 劇中のスペルカード、文・はたてのコメント など
― 参考文献 ―
- 『学研 現代新国語辞典 改訂新版』 金田一 春彦著 株式会社学習研究社 1997
- 『完訳 三国志(七)』 小川 環樹/金田 純一郎訳 株式会社岩波書店 1988改訂版第一刷
- 『中国古典文学大系 第27巻 三国志演義(下)』 立間 洋介訳 株式会社平凡社 1968
- 『諸葛孔明語録』 中林 史朗著 株式会社明徳出版社 H.6五版
七星「セプテントリオン」
- septentrion
- (古)北方地方、北。北斗七星。
ここでは、スペルカード中の弾幕の形状がそのまま北斗七星の形であるため、北斗七星の意味で良いであろう。
頭に冠する”七星”も同じく北斗七星を指した語であろう。
北斗七星は日本でも七つ星、七夜の星、七曜の星、四三の星、舵星など多くの別称を持つ。
古来より北斗七星は暦、季節、時刻を知る上での指標として用いられて重要視されたこととも関連するであろう。
生活の上だけではなく、信仰上においても北斗七星は注目されており、道教では北斗神君として神格化された他、『捜神記』では「南斗は生を司り、北斗は死を司る」とされたように人の生死という重要な概念と関わりがあった。
密教では妙見菩薩として神格化され、護国・延命・眼病平癒などに験ありとされ崇められた。
なお、北斗七星の七つの星それぞれの名前を列挙すると以下のようになる。
星 | 洋名 | 漢名 | 道教などでの呼び名 |
---|---|---|---|
α | ズーベ(ドゥーベ) | 天枢 | 貪狼 |
β | ミラク(メラク) | 天璇(璇) | 巨門 |
γ | フェクダ | 天璣(璣) | 禄存 |
δ | メグレズ | 天権(権) | 文曲 |
ε | アリオト | 玉衝 | 廉貞 |
ζ | ミザール | 開陽 | 武曲 |
η | アルカイド(ベネトナシュ) | 揺光 | 破軍 |
このうち、ミザールの脇にはアルコル(漢名・輔(輔星))と呼ばれる星が存在する。和名では添星と呼ばれた(ただしアルコルに固有の名ではなかったようである)。
日本での俗信ではこの星を寿命星といい、正月にこの星が見えなくなると寿命が近いと言ったり、四十暮と呼んで四十歳を過ぎて視力が衰え見なくなる星、ともされていたという。
これに関連して、漫画『北斗の拳』では「死兆星」と呼ばれる星が死期が近付いた者には見えるとされていた。
本スペルカードにも、北斗七星の七つの星の他に、小さな星(弾幕の発生源)が出現し、これを放置しておくと鱗弾を長時間に渡ってばら撒き続け、状況が悪化する。
この小さな星は、その役割(放置する(=見える)と状況を悪化させる)から先の輔星や死兆星をモチーフにしていると思われる。しかし、本スペルカードでこの問題の小さな星が出現する位置はミザールの脇ではなく、ミラクの傍であって位置が異なる。
これを考える上で、『三国志』中で諸葛亮孔明が五丈原の戦いの最中、死に瀕する場面を見てみたい。
この際、孔明は三台の星座に客星が現れ、主星が見えなくなり、さらにこれを補佐する星も色が変わったことを見付け、自らの寿命を悟ったという。
先の事象に宛てがうならば、この客星は孔明にとっての死兆星のような役目になっていたと考えられる。
さて、ここで登場した三台は、三能・天柱・三奇などの別称を持ち、中国の天文学において紫微星(北極星)を守る三つの星であるとされ、その三つの星は上台・中台・下台とされる。この三台は、地上では三公(中国の最高の位にある三つの官職)に擬される。
三台の位置はというと、北斗七星を含む大熊座の足を結んだものであり、北斗七星ではα星からβ星へ向かって、さらにその先に位置する。
つまり、星座としての見かけの距離は少し離れてしまっているが、本スペルカードでの小さな星が出現する場所と大体重なる(特にβ星、つまりミラクの脇となると中台の辺りが小さな星の出現位置になろうか)。
これらのことから、本スペルカードで出現する小さな星は、輔星や死兆星の役目を持ちつつも、その位置に関しては『三国志』中で孔明が自らの寿命を悟った客星がモチーフになっていると考えられないだろうか。
なお、『ダブルスポイラー』でのおくうの直前のスペルカードは星符「巨星墜つ」であり、孔明が死亡する章の題が「大星隕つ」であって類似することも、これと関連するのかもしれない。
ただし、これには問題もある。
三台の星座は中国の三公(最高の位にある三つの官職)に擬されると先述したが、五丈原の戦いの際の孔明は丞相の職にあった。前漢時代の三公は丞相・大司馬・御史大夫とされていたようだ。
これを上から当て嵌めるならば、孔明は丞相であり、上台に相当すると推測される。
もしそうであるとすると、本スペルカードの小さな星の出現位置とはズレてしまうのだが…『三国志』では三台の星座に客星が現れた、としか記しておらず、残念ながらこれ以上のことは不明としか言いようがなさそうである。
― 出典 ―
- 『ダブルスポイラー ~ 東方文花帖』 上海アリス幻樂団製作 2010
- ※ 劇中のスペルカード、文・はたてのコメント など
― 参考文献 ―
- 『ジーニアス英和大辞典』 小西 友七/南出 康世編集主幹 株式会社大修館書店 2001
- 『LEXICON LATIN-JAPONICUM 羅和辞典』 田中 英央編 株式会社研究社 1966増補新版
- 『広辞苑 第六版』 新村 出著 岩波書店 2008
- 『平凡社 大百科事典 13』 下中 邦彦編集発行人 平凡社 1985
- 『「道教」の大事典 道教の世界を読む』 坂出 祥伸責任編集 株式会社新人物往来社 H.6
- 『日本民俗大辞典 下』 福田 アジオら編集 株式会社吉川弘文館 2000
- 『日本民俗宗教事典』 佐々木 宏幹ら監修 三秀社 1998
- 『日本文様事典』 上條 耿之介著 雄山閣出版株式会社 S.56
- 『天文学辞典』 鈴木 敬信著 株式会社地人書館 S.61
- 『星の辞典』 鈴木 駿太郎著 株式会社恒星社厚生閣 S.49改訂
- 『完訳 三国志(七)』 小川 環樹/金田 純一郎訳 株式会社岩波書店 1988改訂版第一刷
- 『ウィキペディア(北斗七星、アルコル)』 http://ja.wikipedia.org/wiki/