神符「神が歩かれた御神渡り」 ― 考察 ―

先日(2013年の話)、諏訪湖にて二季ぶりに御神渡りが観測されたと言う。

そこで、これを機として、軽く神符「神が歩かれた御神渡り」について考察してみようと思う。

神符「神が歩かれた御神渡り」とは、八坂 神奈子がエクストラ道中にて3番目に使うスペルカードである。

その見た目は、青針弾が画面を縦断して一直線に連なると同時に、その青い筋に纏いつくように、螺旋を描くように白針弾が発生する。そして、その両者が画面上部から崩れて散ってゆく。

その後、神奈子自身が自機と同じ縦軸まで移動し、再び青針弾・白針弾の螺旋を描くような弾を発生させる。

このスペルカードの元ネタは、無論”御神渡(おみわた)り”と呼ばれる現象である。神幸(みゆき、しんこう)などとも呼ばれる事もあるようだ。

古から神秘的な現象として、また伝承と結び付く事によってその現象は広く知られていたらしく、御神渡りに関する記述は多い。

例えば、『信濃奇勝録 四 諏訪郡』の七不思議の項目には「湖水神幸」としてその記述がなされている。

湖の上に、冬始て氷はりて、第三日、或は四五日の頃、

上の諏方(※)

より下の諏方のかたに、横幅五尺ばかり一夜に發罅(おこりえむ)、

傳へて神下の宮へ渡給ふとて、是を御渡りといふ、又神幸(かんさき)ともいへり、

此御渡有て後に人わたる、御渡なき内は渡らず、

年によりて御渡りかはる、上の諏訪よりある事はかりなし、

其所によりて年の農凶を卜知す、

下は大和の濱より、南宮明神の邊までは吉也、

又天龍口?天島の邊迄は、不吉の兆と云、

(※ 諏訪は時代や書物によって記述が異なる。上のように諏方と記される事もあったようだ。)

とあり、冬の初め、湖面が氷結して数日後に諏訪大社上社の方から、諏訪大社下社の方へ亀裂が走るという。

これは、上社の祭神・建御名方神が下社の祭神にして建御名方神の妃神・八坂刀売神の許へ通う道筋だと伝わる。 これについては、他の書物においても大体同じような記述がなされている。

そして、八剣神社の宮司らが拝観式を執り行い、御神渡りの様子からその年の作物の豊凶を占うという。

また、御神渡りがあるまでは人々は湖の氷の上には立ち入らず、御神渡りが生じてから氷の上に行き、氷引という漁猟を行うという話もある(余談だが、諏訪湖は山間部の湖にしては珍しく富栄養湖で、魚類が多い。よって漁業も行われており、コイやフナ、ワカサギ等が獲れるという)。

なお、『諏訪大社 謎の古代史』では伊藤富雄氏の『伊藤富雄全集』を典拠として、武神信仰との関係から建御名方神が騎乗であったという信仰があった事を示している。

一方で、同氏は『前掲書』にて建御名方神が龍神であったという信仰から、地を這うが如く氷上を渡っていったと言う説話も示している。

風神録では、神奈子が注連縄を蛇のシンボルとして使用している事などから、後者のように蛇・龍に関する信仰を取り入れたと捉えた方が自然であろう。

また、その弾幕も、青針弾・白針弾共に氷上に走る亀裂を表していると同時に、白針弾の螺旋は、氷の亀裂(青針弾の直線)に沿って這う蛇(龍)の姿に見えなくはない。

よって、弾幕は龍神たる神が氷上を渡ってゆく様子を表している、といえそうだ。

但し、建御名方神が実在しないと思われる(キャラ設定.txtより)風神録の中では、この現象についてどのような伝承が語られたかは定かではないが。

なお、この神秘的な現象について『宮地直一論集 穂高神社史・諏訪神社の研究(上)』ではその発生メカニズムについて詳しく言及しているが、その根本的な部分については謎もあるらしい。

そして、未だにメカニズムの全貌は解明されていないらしい。…これぞまさに、神の成せる神秘の現象といえるのではないだろうか?

さて、上述した御神渡りも例外ではないが、神奈子がエクストラで用いるスペルカードは、本編のそれとは性格を異にすると言えそうだと、筆者は考えている。

例えば、神符「水眼の如き美しき源泉」とは諏訪大社上社・前宮付近に流れる水眼(すいが)川という清流を指し、その水の清さから信仰に至ったと考えられる。

一方で、神符「杉で結ぶ古き縁」は、諏訪大社下社・春宮にある「結びの杉」が典拠であろう。

枝から幹にかけて二本に別れ、根本でまた一つになっているようなその奇特な姿から、昔の人々の眼に留まり、遂に信仰を形成するまでに至らしめたと考えられる。

ここでこの三つのスペルカードには一つの共通点が見える。それは、どれも土地に密着したものであるという事だ。

水眼の流れは昔から変わらずそこにあったであろう。結びの杉も、昔からその場所に根付いていたと考えられる。そして、御神渡りの現象もまた、昔から冬になると起こる神秘的な現象である。

つまり、神奈子が本編で用いる、神事や七不思議といった、パイ生地のように、文化・思想・歴史が複雑な層を成して成立した信仰の上に形成された伝承・神事に典拠をおいたものに対して、エクストラで用いるこれらのスペルカードは素朴で自然と密着した(或いは自然そのもの)信仰をモチーフにしたといえるのではないだろうか?

そういった意味では、本編の神奈子とエクストラの神奈子は別のイメージの上に存在しているのではないか。

つまり、エクストラの神奈子の方が、より土地の自然に深く結びついた
自然神…土着信仰をモチーフにしているのではないかと。

…その理由は敢えて語るまでは無いと、筆者は思う。この後、本殿の奥には”土着信仰の頂点”と呼ばれる存在が控えているのだから――

― 出典 ―

  • 『東方風神録 ~ Mountain of Faith.』 上海アリス幻樂団製作 2007

- 参考文献 -

  • 『宮地直一論集 穂高神社・諏訪神社の研究(上)』 宮地 直一著 株式会社桜楓社 S.60
  • 『諏訪大社 謎の古代史 隠された神々の源流』 清水 理一郎著 株式会社彩流社 1995
  • 『日本伝奇伝説大事典』 乾 真己ら編集 角川書店 S.61
  • 『角川日本地名大辞典 20 長野県』 「角川日本地名大辞典」編纂委員会・竹内 理三編者 株式会社 角川書店 1990
  • 『ビクトリア現代新百科』 渡辺 ひろし編集責任者 株式会社学習研究社 1973
  • 『古事類苑 神祇部四』 吉川 圭三発行者 株式会社吉川弘文館 S.52

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